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矢野康史さんの『第12回つやまニア』 テーマ〈文字の秘密に迫る〉から(第3回)

○日陰と日影と火影はどれが明るい?どれが暗い?
「日陰」「日影」「火影」はいずれも ”光のある場所との関係“ で使われますが、微妙に意味が違います。
日陰(ひかげ):太陽の光が直接届かない場所。基本的には暗め。
日影(ひかげ):光が当たる側の様子を描写する場合もあるが、一般には「日陰」と同義で暗め。
火影(ほかげ):火の光によってできる影。夜や室内での影なので、相対的に日陰よりも暗くなる場合が多い。
自然光の「日陰」「日影」はやや明るさが残る場合もあり、「火影」はより暗い印象です。

○春夏秋冬は(しゅんかしゅうとう)の他にどう読む?
漢字の読み方には「音読み」と「訓読み」があります。
「春夏秋冬」:通常は**しゅんかしゅうとう(音読み)ですが、日常会話や文学作品でははるなつあきふゆ(訓読み)**とも読みます。
季節を生活の中で実感する表現として、訓読みの方が親しみやすく使われます。

○妻と夫 短歌ではどちらも(つま)と読む理由
短歌や和歌では音の響きやリズムが重視されます。
「妻」と「夫」どちらもつまと読むことがあります。
これは平安時代の和歌で、リズムや音数を整えるために読みを柔軟に扱ったからです。
漢字の意味よりも、詩としての響きを優先する文化が背景にあります。

○為人ってどう読むの?
「為人」はひととなりと読みます。
漢字の意味だけでは直感的に理解できません。
このように、漢字の組み合わせで意味が固定されず、読み方が慣習で決まる熟字訓は、日本語独自の表現の豊かさを示しています。

○いく通りかの読み方が生まれた理由
平安時代の和歌では、短歌や連歌で**音数(五・七・五・七・七)**が重要でした。
このリズムは「言葉の調べ」として聴覚的に心地よいことが重視されました。
音数を揃えるため、漢字の読み方を柔軟に変える必要がありました。
そのため、同じ漢字でも文脈や音数に応じて読み方を変える慣習が生まれ、「いく通りかの」読み方という表現も成立しました。
つまり、文学的表現を豊かにするために、音数・リズム・意味の三拍子で漢字や仮名の読みが多様化したのです。

○日本生まれの漢字(和製漢字・国字)
日本で生まれた漢字は和製漢字・国字と呼ばれ、現在174文字ほど確認されています。
例:
蜊(あさり)、鰯(いわし)、蝦(えび)…魚偏の漢字

俤(おもかげ)、裃(かみしも)、躾(しつけ)…物や習慣を表す漢字
峠(とうげ)…山の頂上を表す漢字
糀(こうじ)…日本の発酵食品を表す漢字
漢字の構成や偏・旁から意味を理解できる場合もあり、日本の風土や文化に根ざした文字です。

○日本で生まれた美しい熟語
暁闇(あかときやみ):夜明けの闇
茜雲(あかねぐも):夕焼け空の雲
漢字の意味と音、季節感や自然の情景を組み合わせることで、豊かで美しい表現が生まれました。

○平安時代のひらがな
平安時代前期(905年)に成立した『古今和歌集』には、最初の平仮名が使用されています。
当初、男性は漢字を使用、女性は漢字が使えないため、崩した漢字(草仮名)でひらがなを生み出したことが始まりです。
平安中期にはひらがなが広く使われ、女流文学や短歌を通して文学表現が発展しました。
標準から外れた文字は変体仮名と呼ばれ、200文字以上存在しました。
ひらがなは単なる文字ではなく、文化・性別・社会状況とも密接に結びついた文字文化として発展しました。
さらに、音数文化や「いく通りかの」読み方の発展によって、漢字や仮名の読み方はより柔軟で、文学的表現の幅を広げる重要な要素となったのです。

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