
岡山県津山市、吉井川に架かる境橋の北詰めから広がる城西地域。城下町の面影を色濃く残すこのエリアには、神社仏閣、なかでも寺院が軒を連ね、山門をくぐれば本堂とともに石塔が林立する独特の静謐な空間が訪れる人を包み込む。
その一角に、表通りから少し奥まった場所にひっそりと佇む寺がある。長安寺だ。



「帰家穏座(きけおんざ)」
――ここに来れば、安らぎがある
「素通りされるお方もあるかと思いますが、是非お立ち寄り下さい」と住職は穏やかに語る。
山門、本堂、庫裏(現在建て替え中)とこぢんまりとした境内ながら、ここを訪れた人が口をそろえて言うのが「なんだか落ち着く」という感覚だ。それも当然かもしれない。この城西の寺院群は、単に先祖が眠る場所というだけでなく、生・老・病・死という人生の現実と静かに向き合い、「いま、ここ、この私」として生かされていることに気づく場所――いわば「帰家穏座(きけおんざ)」の大安心を体験できる、またとない聖地なのだから。



1万3千人を超える縁
――「結縁写経帳」の歩み
住職が昭和46年に任ぜられて以来、ひとつひとつ積み重ねてきたものがある。それが「結縁写経帳」だ。お茶を一緒にいただきながら、写経を通じて訪れた人と縁を結ぶ、この寺ならではの取り組みで、現在12冊目を用意中。全国はもとより海外からも、これまでに延べ1万3千人余りの方々がこの場で住職と言葉を交わし、仏縁のありがたさを共に味わってきた。
数字の大きさよりも、一人ひとりとの「濃やかな出逢い」を何より大切にしてきた姿勢が、これほど多くの人をこの小さな寺へと引き寄せてきたのだろう。




夏の風物詩となった坐禅会
――40余年の継続
長安寺といえば、地域に根づいた坐禅会でも知られる。
毎月第1日曜日(1月・8月を除く)に開かれる月例坐禅会に加え、特に注目を集めるのが毎年夏に行われる「夏季焼天坐禅会」だ。40年以上にわたって続けられてきたこの会は、今年も7月20日(月)から24日(金)までの5日間、早朝5時30分からの開催が予定されている。
参加資格は一切問わない。檀家でなくとも、宗派が違っても、宗教を持たなくても、誰でも参加できる。そのオープンな姿勢が支持され、今では「津山の夏の風物詩」として県北の地にしっかりと定着している。
「坐禅というと、棒で打たれるのでは?」と身構える方もいるかもしれないが、住職は「安心して参加してください」と笑顔で言う。ここで大切にされているのは、罰や修行の厳しさではなく、静かに自分自身と向き合うひとときだ。








異業種の仲間たちと、
地域をつなぐ
この坐禅会には、創業当初から一度も欠かさず参加し続けてきた人物がいる。地域活性化への思いを共有しながら、異業種の仲間として共に歩んできた参禅の士だ。すでに80余歳を超えた今も変わらぬ志を持ち、その精神は御息女へと受け継がれた。幕末の津山藩藩主にゆかりのある老舗の暖簾を守りながら、津山の伝統を今に伝え続けている。
こうした出逢いが積み重なり、長安寺はいつしか宗教の枠を超えた「地域のつながりの場」としての顔も持つようになった。







お釈迦さまの教えを、現代に
が坐禅を通じて伝えようとしているのは、仏教の開祖・お釈迦さまが菩提樹の下での瞑想によって得た「般若の智慧」――真実を見つめる眼だ。
難解な教義を押しつけるのではなく、「わかりやすく、正しく、純粋に」伝えることを一筋に追い求め、これまでに小学生から大学生、役場・企業の新入社員研修、講演会など、実にさまざまな場で坐禅指導を行ってきた。近年は副住職も加わり、「坐禅de婚活」「お寺でワークショップ」「城西花まつり巡り」といった親しみやすい企画も開催され、世代を超えて新しいご縁が広がっている。




いま、扉は開かれている
住職がこれまでの歩みを振り返るとき、すでに故人となられた参禅者たちの顔が浮かぶという。北村西望の愛弟子で彫刻家の故・久原濤子氏、生涯笑顔の絶えなかったデザイナー・画家の故・庄野ヒカル氏、そして日本植生を創業した故・柴田正氏――それぞれの生き方と思いが、この寺での出逢いの中に刻まれている。
「あなたとの出逢い、私との出逢い、仏との出逢い、法との出逢いを確かめ合いたい」
住職のその言葉には、50年以上この場所に立ち続けてきた人間の、静かで揺るぎない温かさがある。
長安寺の門は、今日も開かれている。

【長安寺 坐禅会 案内】
・ 月例坐禅会 毎月第1日曜日
(1月・8月を除く)
・ 夏季焼天坐禅会
7月20日(月)~24日(金) 早朝5時30分~
・ 檀家・宗派・宗教問わず、
どなたでも参加可能
・ 場所:岡山県津山市 城西地区 長安寺
分かち合いませんか、ほほえみの心を。
















