木の香りにつつまれたギャラリー。
1月25日から27日まで、津山市伏見町の地味庵で山田尚公さん・息子の直禾さんの叩き彫展が行われた。
なかには尚公さんの父の版画も展示され、来場者は日本人の感性に触れひと時おだやかな気持ちで仏像や神々の世界観に浸っていた。
勝田郡奈義町が拠点
尚公さんは、勝田郡生まれ、東京農工大学在学中に木彫を始めた。
祖父、父も神仏を制作していたが、大正時代に祖父が始めた「叩き彫」を父を経て尚公さんが継承。
今その継承者として直禾さんが「千体佛」「円空佛」など仏像制作を手掛けており、同郡奈義町上町川「叩き彫 昭雲工房」に制作拠点を構えている。
木材は地元で
叩き彫とは、木材を細やかなところまで鏨と金槌で叩いて仕上げるもの、材料となる木は、遠くは赤磐市、ほとんどが地元奈義町や、津山市、美作市などから仕入れている。
スギ、ヒノキ、クス、ケヤキ、サクラなどそれぞれの木の持つ特性や色が仏像たちに個性を持たせている。
縁と佛と神
父が代用教員として働いていた当時の知人がある日、突然「木を伐ったから取りに来て」と連絡してくれたそうだ。
尚公さんにとっては見ず知らずの方だったが、父からの「縁」を感じ、軽トラでもらいに行ったという「山にあったクスノキは、大層見事なものだった」そういう尚公さんの「縁」「佛」「神」につないでもらった多くの作品は、大国主命や、千手観音、阿修羅、大日如来、普賢菩薩、文殊菩薩など神や佛に姿を変え、作品として微笑み、守ってくれているように思えてくる。
「木でつくることは私にとって、行きつくところは佛像です。大学時代の恩師から木の佛像の話を聞いて、日本人の感性として木で佛像制作を続けました」と人懐っこい笑顔を見せてくれた。
まごころこめて
以前も作品展に来たことがあるという津山市内の30代女性は「心がおだやかになります。会場でしか感じられない木の香りがして、来てよかったと思いました」と熱心に佛像を見ていた。
会場では叩き彫りの制作実演もあり大好評だった。
「鋭い刃物を使った叩き彫りだが、やさしい柔らかい表情を出せたらいいなと思う、シンプルにすればするほど難しさや美しさがある、これからもまごころを込めて取り組んでいきたい」。
木版画も
おとぎ話の金太郎や、神代の時代の女性、スズメなどの動物など多くの木版画も展示されている。
木版画は多彩な色遣いで目にやさしいものとなっている。
目を引くのは尚公さんの父の作だという万葉の女性たちの大作。
万葉集に登場する女性たちが笛を吹いており、版画では最高傑作だという。
古代人のロマンとエロティシズムのあいまった拓本版画に多くの人が足を止め見入っていた。
木版画教室は、週に一度昭雲工房で、月に一度岡山市のイオン岡山店内で行われている。
日程などは、昭雲工房に問い合わせてほしい。
これからも叩き彫を続ける
昨年まで大作に取り組むとともに、息子の直禾さんと岡山市にある常住寺の三千佛堂の木端佛(こっぱぶつ)の制作をし充実した日々だったという。
今年も感謝の気持ちをもって作品を作っていきたいという。
「木端佛を作るのは行をしているようなもの、大変ありがたい」昨年の三千佛には集中力も体力も必要だったが、今年は岡山市北区御津金川にある妙覚寺への獅子制作に取りかかっている。
「一つ一つにまごころを込めて、集中して制作していく。春の十連休には岡山市のハレマチ特区で展示する予定なので多くの方に見て、知ってもらいたい」力強くやさしい佛像をゆっくりみてほしい。
山田尚公さんの制作はまだまだ続く。
昭雲工房 奈義町上町川1803
電話 (0868)36-5977
(取材ライティング・武本明波)