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日本語における五文字と七文字

 長い間、古典である和歌について、読み方や技法の、文化としての歴史など、様々な話を書いて来たのですが、当初の頃に、「日本語は五文字、七文字に馴染み易いので、五七や七五の文字数に乗せて書く」と説明しました。
なぜ、日本語に五七調、七五調が合うのか? 七文字と五文字の謎についても触れたいと思います。
 そもそもは、四拍子というリズムが、昔から日本人が親しんでいた拍子だったから。と言われています。
それでは、なぜ日本人は四拍子に親しんだのか? それも答えがありました。
昔、こんなブログを読んだことがあります。
『日本語の単語を類別すれば、二音節のものが圧倒的に多く、それだけで全体の六十パーセント近くを占めている。次いで三音節が三十パーセント弱である。したがってまた、二語の合成語も、二プラス二の四音節がもっとも多いにちがいない。』
さらに、そのブログは、以下のような内容で展開するのです。
「五文字、七文字は文字数が奇数となっているのでは? 奇数では四拍子にはならないのでは?」という疑問が出てきます。
そこで、五音節には一拍半の休止、七音節には半拍の休止を足してみてください。そうすると、これが四拍子にピッタリ当たるようになることに気付くと思います。
そして、この一拍半と半拍の間が歌の印象を変えるのです。
七文字と文字が多く、それでいて半拍入る、七文字を頭に持ってくる七五調は、おおらかで優雅な雰囲気を演出するのです。
それに対し、短く五文字の一拍半が頭にくる、五七調はきびきびした印象を与えます。
こうして日本の文学、文化は、五と七の文字数を基調として発展していく事となったのです。
もっと面白いことに、神社参拝の「二礼二拍手一礼」これも二礼目の後に一拍余分に入いるため、足して二拍半入ると、これが丁度、五・七・七・七・五のリズムとなります。
この、五・七・七・七・五は、後程説明しようと思いますが、都都逸と呼ばれる形式と同じになります。

都都逸
 やや古い人だと、宮田輝さんや浜村淳さんが演歌の冒頭で曲紹介や歌手紹介をしていたのを、記憶している人も多いと思います。
これが都都逸といったものになります。
七・七・七・五を基本に、五字冠の五・七・七・七・五など七文字を主として構成されています。
「歌は世につれ 世は歌につれ 世間にもまれ たどり着いたが この酒場」それでは歌ってもらいましょう。なんて感じです。
 その、都都逸の代表と言えば「立てばシャクヤク 座ればボタン 歩く姿は 百合の花」誰でも知っている有名なものです。これが、すんなり入ってくるのも五文字と七文字を使いながら、それぞれに応じた間を入れているからです。
さらにはパチンコ屋の名文句。これは全く二礼二拍手と同じ「出ます出します 勝たせます(二拍半) 必ずいつか 勝たせます」これも二句目の五文字に、多めの空拍を入れると七・七・七・五となり、しっくりして、印象に残るような聞きやすさが出てくるのです。

現代の歌謡曲での五文字、七文字
 今でも、音楽業界では、日本ぽい雰囲気を演出したい場合は、五七調、七五調を使う曲が多いのです。さらに四七抜きと言われるファとシの音を抜くことで更に日本感(東洋感)を強く感じられようになります。
例えば、一部で演歌ロックと呼ばれている、ウルフルズの「ガッツだぜ」アン・ルイスの「ああ無常」なども五文字と七文字を基調にしています。
ただし、ロックになると八拍子となるので半拍は一拍になります。

8拍子(7音+1休止)・8拍子(5音+3休止)
〇〇〇〇〇〇〇休・〇〇〇〇〇休休休
これが七五調のリズムです。

実際の歌詞に当てはめると、

きれいでしょ(5)
ヒラヒラと(5)
いい女でしょ(7)
見かけより(5)
尽くすタイプね (7)
優しさに(5)
棹さして(5)
男はずるいわ(7)
逃げてゆく(5)
夜が明ける頃(7)

「あゝ無情」 作詞:湯川れい子

この「あゝ無常」などは、メロディーの頭で五文字を多用することにより、印象的で、ポップなリズムを強調しています。
そしてこの間があるからこそ、「綺麗でしょ(早い二拍手)ヒラヒラと(早い二拍手)いい女でしょ(wo wo wo)なんて合いの手が生まれてくるのです。
他にも、五文字、七文字を無理やり押し込んでいるものもあります。特に七文字を多用している「残酷な天使のテーゼ」などは休止拍が多く入り、独特な世界観が生まれます。このように五文字七文字の限りない可能性を見せてくれています。

和歌から、都都逸、歌謡曲と、かなり話がそれましたが、このように五文字、七文字と、四拍子、そしてそれに伴う『間』を上手く使いこなす事で、日本の言葉文化が形成されていることが、よく分かると思います。
最近では、外来語の使用頻度が上がったり、ら抜き言葉など音の短縮化で、字余りや字足らずが増える傾向にありますが、それでもまだ多くは、そのまま使えば五文字、七文字になりやすいのは確かです。
そしてそこから生まれる間こそが、今でも『日本らしさ』になっているのです。

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