アットタウンWEBマガジン

@歌壇「短歌への誘(いざな)ひ」

2025年06月16日

土地活に菜園とされし花畑
 食材までもスミチオン纏ふ
千葉 二朗

●初夏の爽やかな風の中、美しい多種類のバラや様々な花を咲かせてご自分で楽しんで居られるだけでなく、最近はフリーガーデンとして不特定な人たちにも無料で自由に自宅の畑や庭を解放して地域に貢献されている方が、まだ少数ではあるが各地に増えてきているようである。筆者の住む町にも、かなり広い庭と隣接している畑をご主人が仕事をリタイアしたのちバラ園としてとても丹精を込めて沢山の種類の花を育て、地域に開放されている方がいて、いつ訪れてもニコニコと笑顔で迎え入れて頂き、忙しく手入れをされている時も、丁寧に説明して下さり花好きの人は性格も柔和なのだと感心する。花作りにも肥料や病気の予防に大変な費用が掛る。
 さて、掲出歌の作者は現代短歌に挑戦され、そんな花畑をやめて菜園として土地活用された人に少し皮肉を込めて歌に仕上げている。スミチオンは殺虫農薬である。花にはまだしも、野菜を作る菜園に残留農薬は心配ないのか? 警告詠として良歌。

打つメール漢字文章みな忘れ
 書かなくなって尚気が滅入る
岡田  武

●作者は米寿とご自分から公言され、今年から短歌を始められたピカピカの新人歌人である。かなりのご高齢ではあるが、半世紀以上東京でクリエイティブな仕事をされ、都会暮らしも長かった所為か身なりはいつも垢抜けておられ、背筋もピンとしてとても年相応には見えない御仁である。しかも常にあらゆる事に興味を示されて、フットワーク良く数㌔は平気で歩いて行動されるのも常に驚かされている。
 さて、掲出歌であるが茶目っ気たっぷりに現代短歌を詠んでいる。高齢者の方はややもすればオーソドックスな近代短歌(文語調旧仮名使用の伝統的短歌)を詠もうとされるのだが、この作者は短歌を三十一音の定型に当て嵌めた言葉のパズルの感覚で時代を切り取ろうとされている。これからの短歌は、なるほどこういうのも有りか。と何故か納得させられる、ほんの少し都会的なセンスも感じられるのは、初句の「打つメール」と結句「「尚気が滅入(めい)る」隠れた韻を踏んでいるからなのか。

石積みに穴太衆(あのうしゅう)らの技見ゆる
 鶴山城は万世(よろずよ)までも
菅根  緑

●この歌にある穴太衆とは、滋賀県の比叡山延暦寺の山麓、坂本穴太の出身者たちで古くから(元々は古墳の築造に携わっていた石工(いしく)の末裔で)石積みを仕事としていた集団と言われていて、安土桃山時代から後の多くの名城と言われている数々の城の石垣を彼らが築いた事は有名である。その石積みの技術は現代に於いてもコンクリートの構造物と彼ら穴太衆の積んだ石垣の強度実験をしたところ、旧来の彼らの石垣の強度が上回ったとの京都大学大学院での調査結果が発表されている。
 掲出歌の作者は女性なのだが、この作品から城や神社仏閣などにもかなり興味をお持ちの方である事が容易に窺える。このように短歌を詠むということは、様々な知識を三十一音の定型にちりばめられるので、大自然の美しさや宇宙の神秘、歴史上の出来事など広範囲な勉強が歌作りに役立つのである。この作者もただお城を観て美しいと詠むのではなく、その石垣の成り立ちまで詠み込まれ深い歌となった。

耳奥に中山神社の牛市の
 売られし仔牛の鳴き声残る
國木 啓輔

●津山市一宮の中山神社は古来、美作の国一宮として諸説あるのだが和銅六年(713年)美作国が備前国から分立した時に、吉備の中山から勧請を受けたものと推測される説が有力とされている。美作国では唯一の名神大社に列し、中世からは美作国の一宮として崇敬されてきた。明治4年近代社格制度に於いて官幣中社に列し第二次世界大戦後は神社本庁の別表神社となった。本殿は永禄2年(1559年)尼子晴久の再建によるものだが、入母屋造妻入という他地方に例を見ない「中山造」
と呼ばれる構造で国の重要文化財に指定されている。
 この中山神社の門前町は現在は寂れているのだが、この歌の作者が子供の頃は牛の神社として牛市が開かれ、牛を売る人や仔牛を求める人など多くの人が集まって来て、馬喰(ばくろう)宿や華やかな女郎宿など建ち並んでいたと言う。現在は静かな佇まいの神社なのだが、作者の耳には今でもその頃の仔牛の鳴き声が離れない。良歌である。


今月の短歌
風に揺れ
香りを発たす
忍冬(すいかずら)
思考停止の
海馬くすぐる

矢野 康史



矢野康史さん プロフィール

あさかげ短歌会津山支社代表。全国あさかげ短歌会代表。津山市西苫田公民館と一宮公民館の2カ所で短歌教室を指導している。津山市文化協会副会長。



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