アットタウンWEBマガジン

@歌壇「短歌への誘(いざな)ひ」

2025年08月20日

事ごとに亡き父母を思ひつつ
 手本となさむ生きの明け暮れ
岸田 千恵



●今月号も筆者の所属する「あさかげ短歌会」の大先輩であり、先月号に掲載させて頂いた太田千はる編集長の前任の大先生、岸田千恵あさかげ短歌会前編集長にご登壇を頂いた。師は我があさかげ短歌会の私の最も尊敬する指導者の中のお一人であり、会員の皆様から絶大な信頼を寄せられ、常に会の隅々までご配慮されている。
 前回の全国大会に際しては、ご自分は参加は叶わないが有志でと、全国大会を盛り上げる為に使って頂きたいと、実行責任者の筆者の許に高額のご寄附を送って頂き、全国大会をお願いするホテルの調査や観光バスの手配のため何度も現地に足を運び交渉に要した費用など、表に出ない経費として大変有益に使用させて頂いた。
 さて、掲出させて頂いた作品については、大先輩のお歌として内容の説明だけにさせて頂くが、今は亡きご両親の御教えを指針とされ、日々を暮らしてゆこうとされている作者。既にそのご両親のお歳に近づかれているのかとも・・・。

さ庭辺を彩る真紅のボケの花
 道ゆく人の眼捉へて
百瀬 正子



●この短歌の作者も前出の岸田千恵師と同じく「あさかげ短歌会」の大先輩であり、筆者を遠くから常に温かく応援して頂いている先生方の中のお一人である。
 百瀬正子先生と岸田千恵先生は長野県塩尻市にお住いで、全国的に短歌の町としてその名を知られるようになった、「全国短歌フォーラムin塩尻」の大会が市を挙げて毎年開催されている地域であり、歌人太田水穂や島木赤彦、彼を訪ねてこの地をよく訪れていた若山牧水などの創作活動の拠点となっていた広丘地区に建つ「塩尻短歌館」が有名で、私も何度か短歌フォーラム塩尻には参加させて頂いた。
 さてこの掲出歌も、大先輩のお歌として筆者が歌評させて頂くのは僭越であり、烏滸がましいので作品の内容を紹介させて頂くに留めるが、ご自宅のお庭に咲いた紅木瓜の花を一首に詠み込まれ、その真紅の花にのみ焦点を絞り、木瓜の花の側から道ゆく人の眼を捉えていると詠まれ、格調高い結句にされている。

ひとひらの雲も見えない青空に
 とんびの一羽悠々と舞う
 早瀬  榮



●作者は津山市の郊外に暮らされていて数人の文芸好きの仲間と短歌の会に入り、お互いに短歌を持ち寄っては歌評をし合い、毎年地域の公民館の作品展に出品するのを楽しみにされているようである。ご本人はもう高齢でなかなか感動も乏しくなり、歌も詠めなくなったと言われながらも「少しは認知症予防になるから」など、仲間の皆さんがなかなか止めさせてくれない。と苦笑いされている。
 さて掲出歌であるが、なかなか印象的な光景を伸びやかに一首に詠み込まれていて、好感の持たれる歌である。短歌は5 7 5 7 7の三十一音で構成される定型詩で、極力その定型を守る事と、短いが為に一首の中に表現したい事象を詰め込み過ぎない、端的に主張したい事柄を絞ってそこにスポットライトを当てるように詠む。
 この短歌ではほぼその目的は達成されている。雲一つ無い真っ青な空に一羽の鳶が舞っている。短歌の基本をキチンと守られてすっきりと詠まれた良歌である。

水を張り瑠璃の器にイロハモミジ
 初夏の気配を閉じ込めようぞ
福島 明子



●前出の作品に並べると、この短歌は作者の個性が主張されたものになっている。
 前の作品でも述べたが、短歌は5 7 5 7 7の三十一音の定型に極力当て嵌めて詠む短詩である。極論を言えばその他に決められて守らなければ短歌と言えない事など本来無いのである。明治に興った近代短歌が、勝手に文語調旧仮名短歌を短歌のお手本のように、格調高い短歌はそれ以外認められないように未だに根拠のない都市伝説を声高に論じている短歌の指導者がいるが、筆者は大学で万葉集も学び古今和歌集など古典も勉強してきたが、どこにも和歌、短歌が文語調旧仮名でなければ格調高く作れないなど書かれていないし、古来大切にされてきたのは定型を守る事と歌の流れを良く詠む、つまりは定型を守る事こそ歌本来の流れを良く詠む事に繋がるのである。この掲出歌もほぼ定型を守られて詠まれ、結句にのみ新しい挑戦として、作者の強い思いを詠み込まれ成功されている。筆者は評価したい歌である。


今月の短歌


涼しさを
ほんの少しの
お裾分け
半夏生の白
酷暑を払へ

矢野 康史




矢野康史さん プロフィール

あさかげ短歌会津山支社代表。全国あさかげ短歌会代表。津山市西苫田公民館と一宮公民館の2カ所で短歌教室を指導している。津山市文化協会副会長。



【短歌作品募集】
矢野さんの短歌や短歌教室の生徒さんの歌を毎月掲載中。読者からの短歌投稿も大歓迎です。皆様の投稿をお待ちしています。〆切は毎月月末となります。お気軽にご応募ください。

【アットタウン】
読者投稿はinfo@afw-at.jp「読者投稿係」まで

【あさかげ短歌会】
TEL:090-7373-7476
FAX:0868-27-1791

新着情報