
我が庭の目立たぬ所のあじさいが
濃い青色の光を放つ
信清 博史
●作者は高度成長期の日本を支えた、真面目で仕事一筋のその当時の日本人の代表格のような男性である。しかも短歌に親しむ文系というよりどちらかと言えば仕事柄、理系の方だったのではないかとお察ししていた。筆者も短歌を始めるまでは仕事が工業系だった関係で、文学はどちらかというと男がやるものではないと決めつけていた。なので、花を愛でるなど「女の特権!」と勝手に蚊帳の外は見ない事にしていた。この歌の作者も短歌を始められた初期の頃は、歌作りの材料はと言えば野球やサッカー、相撲といった男性特有のスポーツネタがほとんどであった。
しかし、最近は掲出歌のような花を題材に短歌を作られるようになったのは大きな進歩だと捉えている。しかも、その花の「あじさい」が初心者は美しいとか綺麗と、直接的な表現で詠みがちなのだが、上の句「目立たぬ所の」と下の句で「濃い青色の光を放つ」と具体的に表現されて、一歩階段を上がられたと評価したい。
庭に咲く「墨田の花火」楚々として
清しき花は 雨中の花火!
堀内 あい子
●前の掲出歌に続いて「紫陽花」の歌になってしまったが、この作者の短歌は意識的に新しい技法を用いようと少し冒険をされているので、最近の現代短歌にチャレンジされている作者という事で並べて掲出させて頂いた。
どちらの歌が良い悪いといった事ではないのだが、この短歌の作者の方が歌歴は長く、昔から短歌をやって居られる作者ほど近代短歌の「文語調旧仮名短歌」が垢のようにこびり付いてなかなか自由表現の現代短歌を受け入れられない人が多い中この作者は二箇所新しい技法を試している。まず、一つ目は下の句の四句目と五句目の間に一マス空きを意識的に設けている点。もう一箇所は最後に「!」マークを使い結句を強めている点である。最近の若者たちが時折、このような文字以外の表現を短歌に採り入れ始めている。当然、旧来の短歌愛好者は反対意見が多いようだが、筆者はその一首に必要な表現であれば認めても良いのではと肯定している。
人生はまさかの坂がやってくる
ご招待したつもりはないのに
河原 弘子
●一読して思わず「そりゃあそうだ!」と思われた方も多いのではないだろうか?
この短歌のように、長い人生の間には誰でも一度や二度は(あるいはもっと再々)「まさか」と思える出来事に遭遇するものである。しかも、想定外だからこそ「まさか」なのだから、下の句に有るように「ご招待したつもりはないのに」は至極ごもっともなのだが、では誰でもこんな短歌が詠めるのか?となると話しは別。
掲出歌の作者は女性なのだが、この歌のように歌作りの材料はあらゆる場所に存在している。他人の歌を読んでみると、ごく当たり前の事を短歌にしているんだなぁ~と、つい軽く考えてしまいがちであるがじゃあ貴方も同じように歌を詠めば?と言われれば意外に多く身近に存在している「歌の材料」に気付かずに生活しているのが常である。この歌のように思いも寄らぬ「まさか」の出来事もこの作者は、下の句の私は「ご招待したつもりはないのに」と少し皮肉気味に切り返して巧い。
五月雨のあがり爽やか大欅
出雲大社に若葉がひかる
稲垣 晶子
●清々しい一首である。五月雨は旧暦五月の長雨の事なので、今で言えば梅雨なのだが、今年は本当に梅雨が五月終りから六月にかけてしかも、思わぬ短期間でこのジメジメした嫌な季節が過ぎ去ったのだ。雨上がりの爽やかな風に作者はふと遠景の出雲大社の大欅の新緑が目に飛び込んできたのである。
今後の勉強の為に、この掲出歌の良い点と少し残念な点を一点ずつ取り上げてみたい。まず、良い点は下の句の「出雲大社に若葉がひかる」と具体的に読者に伝わり易く表現している事である。端的に詠まれた事によって上の句の「大欅」が出雲大社の境内に存在している事が伝わり情景が立ちあがってくる。ただ、惜しいことは上の句の二句目「あがり爽やか」の爽やかが直接的な表現であるために逆に全部言わないで読み手にそれを感じさせるという「歌の極意」を放棄してしまった事になった。「爽やか」の四音を何に代えるか?作者の今後の成長が楽しみである。

今月の短歌
移り香の
細りてゆかむ
徒然(つれづれ)を
したため送る
後朝(きぬぎぬ)の文(ふみ)
矢野 康史

矢野康史さん プロフィール
あさかげ短歌会津山支社代表。全国あさかげ短歌会代表。津山市西苫田公民館と一宮公民館の2カ所で短歌教室を指導している。津山市文化協会副会長。

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~意外に知られていない~
日本の文字の不思議
【日程】7月18日(金)
【時間】13時30分~15時30分
【会場】久米公民館 第3会議室(津山市中北下1271番地)
【講師】矢野康史先生(全国あさかげ短歌会代表)
【参加費】無料 ※事前申込不要
【問合】久米文化協会事務局 ☎0868‐32‐7011
















