
花冷えし湯呑み茶碗を両の手に
包み込みつつ背中丸める
山本 見佐子
●短歌を指導していて、「短歌」って俳句や川柳や詩(ポエム)やエッセイなどと何が違うの? と尋ねられる事がよく有る。短歌、俳句、川柳はその起源はすべて日本の定型短詩「和歌」から長歌(五音七音を3回以上繰返し最後に結句七音で止める)旋頭歌(五七七、五七七の六句からなるが明治以降ほぼ見られなくなった)
短歌(五音七音を二度繰返し結句七音を加えて終わる。五七五を上の句、七七を下の句とも言う)俳句は短歌の上の句から発達し季語を含むものとされている。
ここではその他の詩やエッセイの説明は省くが、短歌は三十一音の定型で完結させる文学なので、作者は端的に表現し作品の中に多くの情報を詰め込み過ぎない事が重要になってくる。その中でこの歌の作者は文字に無い(おそらく湯呑み茶碗の湯は息を吹きかける程温かいだろう)とか、きっと作者は寒がり(背中丸める)から事象を読み手に感じさせられる歌を詠まれている。正に短歌の効能である。
君と我隔たる距離の遠けれど
想ひを込めて月光(つきかげ)見あぐ
岸元 弘子
●古典である「万葉集」はその多くが相聞歌(相手を想い合う歌、つまり恋の歌)とレクイエム(大切な人の死を悼む鎮魂歌)である。その後の古今和歌集、新古今和歌集などにもやはり相聞歌が多く編纂されている。
この掲載歌も一読して相聞歌である事が分かるのだが、短歌を勉強されている方から「先生、私はとても人様に自分の恋愛の話しをしようとも聞いてもらおうとも思いません。それより密かに想っているほうがイイし、こっ恥ずかしくてとても短歌に発表しようなんて思いません!」と言われる方も少なからず存在するのだが、
短歌はすべて事実を書かなければならないという掟は何処にも無い。逆に言えば小説や物語など、そのほとんどがフィクションつまり創作であり「夢」の中の出来事なのである。そこに書かれている事が事実で有ってもそうでなくても、心をうきうきさせたりはらはらとその物語に読み手を引き込む歌が秀歌なのである。
痩せた腕にテープ巻かれたガザの地の
この子に母を父を還して
丘野 美登里
●戦闘で瓦礫の山と化した街の中を、救助されている子供たちの映像を目にする度に心が締め付けられる。この一年何度同じような画面を見せられているのだろう?
人間は何故人間同士傷つけ合うのだろう?他の生物たちより高度な知識や知能を持ちながら、同じ過ちを何度もなんども繰り返す。しかも安らぎや心の拠り所となるはずの思想や宗教がその争いの元になっているケースが多いのが何より不思議だ。
この掲出歌はイスラエルとの紛争で、ほぼ一方的な爆撃を受け大勢の市民が無抵抗な状態で殺害され、傷付いた子供たちが痩せ細った腕にテープを巻かれているのをテレビの画面で見た作者が詠んだ短歌である。ほんのわずかな国際機関からの支援で配給されるスープの鍋の底を何度も何度もこすりつけて汲もうとしている姿、目が落ち込んでガリガリに痩せた子供らに何の希望が持てるのだろう?この歌を詠んだ作者の、下の句「この子に母を父を還して」は心の叫びとして素晴らしい!
長老の知恵の重さは無重力
漂うオーラ耳で量りぬ
田原 泰雄
●長老を辞書では学徳のある人、経験豊富で指導的立場にある人に対する尊称とある。頭に「町の」とか「村の」或いは「グループの」や「会の」が付く場合が多いが、武士の時代にも老中とか大老といい指導的立場にある人物の(年齢には関係なく)役職としていたのだが、「老」という文字にはただ無為に歳を取っているのではなく、何某(なにがし)かの知識や経験の積み重ねといった目に見えない「重み」を持っていると感じられる。筆者も常にそう老いたいと願っているところである。
さて掲出歌であるが、作者はその「長老」を逆説的に「知恵の重さは無重力」と詠っている。長老と言われる人の知恵に重さを感じない? と一瞬、首を捻るのだがこれは短歌の一つの技法であって、(そんなはずは無いと読み手を引き込ます)
その下の句に本来の作者の意図を持ってきて、「無重力に漂うオーラ」とし、そうかそんなに広い知識なのかと、それなら耳で聞いて量るしかないと納得させる秀歌。

今月の短歌
時雨(しぐれ)つつ
晩秋(あき)の果てゆく
山裾を
銀杏(いちょう)の落ち葉
黄金に染める
矢野 康史
矢野康史さんプロフィール
あさかげ短歌会津山支社代表。全国あさかげ短歌会代表。津山市西苫田公民館と一宮公民館の2カ所で短歌教室を指導している。津山市文化協会副会長。
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