アットタウンWEBマガジン

@歌壇 短歌への誘ひ

2026年04月09日

入居者とホームに歌ふ「里の秋」

 母への思ひ胸に寄せくる

向山 悦子

今月のこのページには神奈川県の相模原市で、あさかげ短歌会の相模原支社を立派に運営され、独自の「あさゆき」という地元の会誌を平成二十九年七月第一号の発行から、昨年令和七年十二月の百一号まで少数の会員ではあるが皆さんでたゆまぬ努力を重ねられ、律儀に毎号発行の度にあさかげ短歌会の代表である筆者の許へ送って来られ、その支社長をされているのがこの歌の作者向山悦子氏である。

 氏は全国のあさかげ短歌会の監査役員もされていて、東京事務所の幹部役員でもある。さて掲載歌であるが、氏は現役の介護職員でもあり(筆者も五十代の頃は社会福祉主事として認知症対応の老人介護施設で、現場の夜勤まで経験しているが)勤務中での実体験を短歌に巧く詠み込まれ、現場での作品を多く発表されている。

 あさゆき百一号にも〈浴槽に紅葉浮かべ入居者と「もみぢ」の歌を共にうたひぬ〉

の歌も発表されていて、仕事を通して氏のお人柄がよく表現されている秀歌である。




酷暑なる昼を思へづ早朝の

 風はさやかに秋をはこべり

小室 経子

この作品の作者もあさかげ短歌会の相模原支社で活躍されている方である。

昨年(令和七年)の夏は殊の外暑さが厳しくて、日本中が熱波に包まれ秋の彼岸を過ぎてもなかなか気温が下がらなかったのを、この文章を書かせて頂いている極寒(一月二十五の朝の気温が氷点下5℃で雪も昨夜から降り積もっている)の中では逆に懐かしい気持すら湧いてくるのが不思議であるが、本当に昨年の晩夏はこの掲載歌に詠われている通りの酷暑続きで、こちらの地域でもなかなか秋の訪れを感じさせない日々が十一月に入っても、確かにまだ夏の名残を引きずっていた。

 しかし作者はその昼の暑さに閉口しながらも、早朝に吹く風が少しずつではあるが、さやかに(はっきり感じるほどに)涼しさを運んでくれはじめた事に気付いたのである。この短歌の良さは、「爽やかに」と直接的な比喩を使わずに「さやかに」と少し「間接的表現」に変えたところが成功している。作者を讃えたい。




尾花咲くプールにかつての賑はひを

 想ふしか無し老舗旅館に

 飯野 妙子

作者は山梨県甲府市にお住いの方。当地には老舗のホテルやイチゴ農園などが広がって曾ては観光地として賑わっていた地域であったようだ。

あさゆき誌に「田舎都市老舗ホテルの屋上のプールは割れて尾花咲きたり」の短歌も同じ作者の作品として掲載されているので、同じ時期に詠まれた歌だと推察できる。筆者の住む岡山県も果物王国として知られているが、山梨県も同じくイチゴや葡萄、桃といった果物が多く作られていて、温泉の長閑な観光地が点在している事も似かよった環境ではないかと、以前から好きな地域の一つであった。

 この掲出歌から、以前賑わいを見せていた老舗の大きなホテル(屋上にはプールもあって)人気のあった当時は大勢の家族連れが引きも切らさず押し寄せていたのであろう「かつての賑はひを想ふしか無し」という表現も良いが、「屋上のひび割れプール尾花咲き老舗ホテルに木枯し荒(すさ)ぶ」ともっと荒涼感を出す手も有るか?




人並か不安をかかえ生きる吾

 恥じらい見栄は捨てて尋ねる

布施 道代

このお歌、一読して本当に素直に短歌を詠まれていて、作者のお人柄がよく表現されている。筆者も同感で実は知識も才能もそれほど無いのに、いかにも物知りのように振る舞って自分から人の前に前に出るヤカラが世の中多いが一番嫌いなタイプであり、筆者自身がそうならないよう自戒の一番とし肝に銘じている事である。

 知識は無いのが恥ずかしい事ではなく、知ろうとしないことが恥ずかしい事であり、もっと恥ずかしいのは知ったかぶりをする事である。事情があり筆者も中学しか出ていなかったが、自力で働きながら夜間高校に通い、大学も六十を過ぎてから奈良大学の通信教育学部(入学して卒業できる人は約二割ほどと聞いたが)に通い何とか十年かけて七十三歳で卒業した。人間は生きているかぎりいつでも、いつまでも勉強は出来る。その為には健康な身体が一番であり、よく食べよく寝てよく歩き、「恥ぢらひ見栄は捨てて尋ねる」はご立派! 短歌も是非頑張って頂きたい。

 




今月の短歌


波が寄せ

崩されてゆく

砂の塔

それでも積もう

ガザを祈りて


矢野 康史 



矢野康史さん プロフィール

あさかげ短歌会津山支社代表。全国あさかげ短歌会代表。津山市西苫田公民館と一宮公民館の2カ所で短歌教室を指導している。津山市文化協会副会長。





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