令和六年六月四日~五日、長浜市の北琵琶湖ホテルグラッツエに於いて令和二年からコロナ禍の為、四年間開催を見合わせていたあさかげ短歌全国大会が東は茨城県石岡市や千葉県鎌ヶ谷市、東京や横浜、横須賀からの編集委員はじめ長野や諏訪、下諏訪、岡谷、茅野といった信州方面の編集長や会員約五十名の参加を頂き、二階大会議場の前面に広がる琵琶湖のロケーションに全員から感嘆の声があがった。
和やかな中にも久し振りの総会と短歌大会という事で、前もって詠草をそれぞれ一首提出していた、全五十作品の中から参加者は一人八首の作品を選んで投票するという方式で得票が集計され、すべての作品を壇上の十一名の先生方から端的に分かりやすく歌評して頂いた。そしてその中から高得点の上位十名までが表彰を受け、得点二十六票で同率一位の岸元弘子氏と矢野康史代表、十九票で三位の村松紘子氏の歌三首が伊藤東京事務所長、村松、小林両編集委員による高らかなる朗詠を受け厳かに全国あさかげ短歌大会が執り行われた。
詠草集を作るのも完全に出詠者の名前を伏せ、大会本部に到着順に作成し投票に忖度される事の無いよう気配りをしたので、参加地域による投票の偏りは防げたが、結果的に津山からの参加者十一名中三名が高得点で表彰を受けることとなった。
総会と昇欄者の発表、年度賞者の表彰に続く、全国短歌大会は十二時半より十六時までにスムーズに進行し、十八時より懇親会に移り各地から芸達者な会員による手品やカラオケ、信州方面の参加者による「信濃の国」の合唱と、津山からは会員四名で「奥津小唄」の洗濯ダンスを披露し、やんやの喝采を浴び、お開きは恒例である東京方面の先生方を先頭に「東京音頭」の踊りを参加者全員で踊り名残惜しい懇親会の幕引きであった。
第五十九回 あさかげ短歌全国大会 詠草集及び選歌得票結果
(1)感情の行きかうような交差点わたしは街の細胞となる
15票 4位 津山 田上久美子
(2)穏やかな瀬戸内海の岩峰に際立つ紅葉(もみじ)夕陽に映(は)える
8票 津山 山本見佐子
(3)盆の月生絹(すずし)の雲を纏ひたる万葉の女人いと偲ばるる
13票 8位 横須賀 武部 靖江
(4)尋ねしも応(いら)ふ人なき雑踏に我見守りて案内せし人
3票 相模原 向山 悦子
(5)エリザベス女王の眠る教会に魂ふるえひたすら祈る
5票 東京 高山美枝子
(6)突然のみぞれ混ぢりの突風に調子乱れるグランドゴルフ
2票 津山 河原 洋文
(7)どこまでも雲ひとつなし秋の空わが人生も清々しくあれ
9票 津山 河原 弘子
(8)八ケ岳(やつ)裾の彩るもみぢも散りゆきてよべに寒ざむ霜月の雪
6票 富士見 太田みふき
(9)大空を悠然と舞ふコウノトリ少子の郷に瑞鳥なれかし
13票 8位 加古川 藤原 暁美
(10)待つ人のをらぬ気儘のまはり道そぞろ歩きに木犀香る
19票 3位 東京 村松 紘子
(11)めぐみさんを四十六年待ちつづけ母は初めて弱音吐きたり
11票 次点 横須賀 澤田 文子
(13)道の辺のいも虫友は愛しげに手に乗せ木の葉にそっと移せり
11票 次点 あしかり 村田ナヲ江
(14)百年に一度のみ咲きて枯るるとふ古民家の庭に竹の花見ゆ
15票 4位 あしかり 小林 優子
(15)注意力散漫となり鍋焦がすかつて経験なき事のひとつ
5票 東京 小林 賀子
(16)柿の木に残りゐる葉の色のあせ秋深き風にひらひらと舞ふ
4票 塩尻 中村 孝枝
(17)MVP満票二回は史上初大谷選手の偉大さ認知
2票 津山 信清 博史
(18)腰痛を抱へる友の後ろ姿老いの萌し見え我が身同じなり
2票 横須賀 石和 優子
(19)木に残る柿のあまたの円ら実が茜の空に溶けて暮れゆく
26票 1位 津山 矢野 康史
(20)病室の窓うつりゆく白き雲眺めて過ぐす明日想ひつつ
11票 次点 塩尻 林 愛子
(21)三百年経し紋竹の花開きあしがり屋敷の歴史知らしむ
9票 あしかり 鍵和田和子
(22)博多駅キラメク光迎へられ僅か二日の孫とのデート
5票 津山 稲垣 晶子
(23)残照は時の間すれば消えゆきて夜空に鋭き細月浮かぶ
7票 横須賀 石渡由美子
(24)杳き日に笑顔忘れじと約束せし恩師百歳の温顔囲む
7票 下諏訪 北川 貴美
(25)横山大観(たいかん)の無我の絵飛び出た人形は安らぎ持たらす我の友達
2票 津山 信清 小夜
(26)静もれる夜の動きぬ退院を報らす夫の明るき声に
13票 8位 塩尻 瀧澤知恵子
(27)イベントに甘酒出店大童手伝い無用と甥の一言
3票 加古川 鳥越 光世
(28)赤き柄のキッチン鋏朝日師と共に買ひたる岐阜の旅先
4票 千葉 伊藤すみ江
(29)齢欄へ臆さず記する隣人を覗き見すれば九十五歳
10票 相模原 飯野 妙子
(30)氷入れ振ればグラスにあたる音梅のかほりと共に味はふ
11票 次点 諏訪 宮坂ひろ子
(31)手術同意書(どういしょ)に妻と記して湧く自覚遅いじぁないか五十年は過去
6票 諏訪 太田千はる
(32)新米の煮ゑゆく香りの懐かしく竈(かまど)に母と昭和は遠し
15票 4位 諏訪 田中 礼子
(33)温かきコーヒー一本弁当に添へて霜月の草刈りに出づ
9票 諏訪 千村 千咲
(34)赤マンマの根ごと挿したるグラス置くカウンターより涼風もらふ
2票 諏訪 宮阪 仁子
(35)舅姑と共に歌ひし鉄道唱歌五十一番琵琶湖を語る
5票 横浜 原嶋美智子
(36)月夜道うさぎうさぎと親子影掌の温もりと垣根の灯り
9票 津山 佐藤 建子
(37)収穫終へ林檎作りをもう一年やろうと決めし明るき気持
7票 諏訪 宮阪 淑子
(38)人生は地球(ほし)の生命に喩ふれば瞬きほどに何故に戦争(あらそ)ふ
26票 1位 津山 岸元 弘子
(39)工場の煙突にかかる十三夜の月は黄のいろ重々として
2票 塩尻 デイビス由美
(40)柿の皮まめに剥く妻浮き浮きと味の先潜り日差しほほえむ
3票 下諏訪 長田 安弘
(41)満月の真中に十字の一本が梯子のやうに吾庭に射さる
3票 茨城 酒川千鶴子
(42)職業はホストとふ青年が短歌(うた)に重ねて心を語る
7票 東京 平本 浩巳
(43)夕暮れを隣屋(となり)の明かりに温もりて独り夜長をあしたへつなぐ
14票 7位 茅野 小原喜久恵
(44)疎(うと)かりし異母兄弟が父の三十三回忌(ついき)果し湖畔に語れば富士が
4票 諏訪 笠原さき子
(45)八十年ぶりに尋ねし左沢(あてらざわ)小学校長室に「おかえりなさい」と板書くっきり
3票 岡谷 山岡 純子
(46)をさな児のはしゃぎ廻れる座敷内四世同堂年の始めに
4票 下諏訪 高木萬知江
(47)幻想はガラスとガラスに絵をはさみドーム兄弟朝焼けの景
1票 下諏訪 友野美智子
(48)トントントンまな板たたく音軽く土の匂ひの七草の粥
8票 下諏訪 高木 和子
(49)能登の地に瓦礫片付き幸がやって来るのは桃咲く頃か
4票 下諏訪 藤森 のり
(50)雪道にいくつか交わる足跡がいつも立ち寄る草むらの中
6票 津山 小川 壮寛
<後日参加>
○稽古日は一週間の句読点ひとりになれる貴重な時間
長野 高野 香織