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和歌への誘ひ

 初回は短歌全般について、続く前回は和歌と呼ばれているところに絞って、和歌の楽しみ方や修辞法について、折句を参考例に挙げての説明をしました。
続いて今回からは、主要な修辞法について具体的に、歌を題材にしながら簡単な説明となります。
ちょっと、ややこしくなりますので、よく理解できないところは「こんなもんだな」くらいのつもりで読んでください。

枕詞
特定の単語、熟語を装飾する言葉です。
今は、特定の単語に特定の枕詞となっているため、深い意味を考えることをしなくても詠むことができます。
例えば、「ひさかたの」は天を指す枕詞から転じ、天にある月や、天上のものとして神話にまつわるもの、また強く光るものや昼中などにもかかる。
元々は「日射す方」が「ひさかたの」となったともいわれています。

掛詞
俗にいうダジャレです。
同じ音で意味が異なる言葉を入れます。後は評価されるか否かはセンスです。

例として太平記で笠置山が陥落し、雨の中で脱出を試みた後醍醐天皇が捕縛される直前に、雨をしのぎながら休んでいる時に、詠んだ歌があります。
『さして行く 笠置(かさき)の山を 出でしより あめが下には 隠れ家もなし』
この歌には私が見る限り三つ掛詞があります。
まず、一つ目は『さして行く』。
通常の使い方では、どこかを目指していく状況を指す言葉です。この場合ですと、「安全な場所を探しながらも目指している」となります。それと「傘をさす」をを掛けた言葉となっています。

二つ目は『笠置の山』です。
笠置(かさき)はご存知の通り地名です。それと傘が掛かっています。

そして最後に、『あめが下』です。
あめが下は、この世の中(天下)という意味です。それに雨の下を掛けているのです。

当時の高貴な方々は、危機的状況下に、このように ”しゃれっ気“  のある歌を詠むなんて、今の時代を生きる私達からすれば、かなり悠長だったんですね。

序詞
関連性のある語句を導き出すという使い方の言葉です。そういった使い方では、枕詞と全く同じです。
枕詞は必ず冒頭で使用する。文字数は五文字で枕詞として使える言葉は決まっているといったルールがありますが、そのルールを取っ払ったのが序詞です。

『巨勢山の つらつら椿 つらつらに 見つつ思はな 巨勢の春野を』この歌は、万葉集にある坂門人足の歌ですが、『つらつら』はつくづくといった意味です。
その、つらつらを導くために音のリズムとしてつらつら椿が使われています。

このような序詞の使い方以外に、掛詞のように使ったり、縁語の様に使ったりもします。

縁語
ある言葉から連想する言葉を使うことです。
例えば忠臣蔵で有名な宝井其角の発句に対し、大高源吾が返句をしたといった設定となっている歌で説明します。

『年の瀬や 水の流れと 人の身は あした待たるる その宝船』
年の瀬やの瀬は浅瀬です。それに水の流れという言葉を合わせ縁語にしています。
さらに、返句として返した、あした待たるる その宝船 の宝船は水の流れとの縁語になっています。

一首の歌を、上の句と下の句に分けて二人で読む中で、縁語を使って詠むとまるで一人で詠んだ歌のように感じます。
これを本当に大高源吾が返句をしたのであれば、翌日の討ち入りを控えて、余裕がある懐の大きな人なのだなあと感心します。

句切れ
句切れは区切りの語源でもあり、文字通り句が切れるところになります。
文章で言えば、一旦文章が切れる部分です。句読点の ”。“  部分を句点と言いますよね。
意味も使われ方も全く同じです。
五七五七七がそれぞれ一句ですので、短歌は計五句からできています。
最初の一句目で句点が入るのが一句切れ、五七で句点が入るのが二句切れと呼びます。
最後まで句点が入らないのが句切れなしとなります。

この句切れは、単語にインパクトをもたらすために取り入れる表現で、現在の文章でも普通に使います。和歌の修辞法というより、詠む際に、印象を強く持たせるためのコツ、といったものだと、私は思っています。

 ここまで紹介してきてどうでしょう。
和歌の楽しさが、多少分かって頂けたでしょうか? しかし、まだまだ修辞の修法があります。
今回は一旦この辺りで締めくくり、次回に続きを説明したいと思います。

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