やさしい笑顔で会ってくれた
初めは話しにくい人かな、難しいことを説明されるんじゃないかなと緊張していたが、お会いして話すうちに、とてもよく笑う(微笑むといった方がいいかもしれない)丁寧な方。
楽しい時間を過ごさせていただいた、久米南町神目中にある政近昭二さんの工房は、JR津山線神目駅からくねくねの上り坂を約1㎞上がった所にある。
指物は杢目を合わせた
美しさが際立つ
元々木が好きだった政近さんは「指物(さしもの)は杢目のいいところを存分に出す事ができます、模様や形なども思いのまま組み合わせる事ができるので、刳物(くりもの)よりもおもしろいと思いました」と言う。
指物とは木の板をさしあわせて組み立てて作ったもので箱などの加工をする技、大きいものでは机の制作もある。一方刳物は、刃物で刳って加工する技で鉢やお盆などを加工する技。
政近さんは基本的には同じ木でパーツを作るが、例えば縦長の八角箱では40以上のパーツがあるという。
そのパーツを組み立てていく時、杢目を揃えるのが大変な作業だ。「杢合わせはとても気を使い難しい作業ですが、合った時にはとても気持ちがいいです」と笑う。
光などの力をもらって魅力は無限大
木の杢目を最大限生かして、匠の技を組み合わせる、木の面白さを知り、緻密な計算、細かい作業工程を経て六角、八角、十二角など様々な形の箱などを生み出す。
政近さんの技は、杢目の美しさが印象的だ、光線の具合によって深い色に見えたり輝きを放つまぶしい金色に見えたりと、作品の魅力は無限。
初心を忘れない謙虚さ
門外不出の政近さんのごくごく初期の作品を見せて頂いた「これを持って行って見てもらったら、けちょんけちょんだった」と杉の素材でできた箱をポンポンと叩く。
「これを取っておくのは、その日のことを忘れないため」と見せてくれた作品は、見よう見まねで指物に挑戦した政近さんが見える。
少しばかり木工芸品に興味がある私も内心「これは、けちょんけちょんだなー」と失礼ながら思うような箱。
でもこれが政近さんの匠の技を生み出す第一歩になったのだ。
塗りをも施していない杉の箱は、彼の思いの深さがにじみ出ていた。
小物づくりも楽しみながら
知人に頼まれて作品を作ることが多いという。
「注文を受けて断っていた時期もあるが、せっかく頼まれた箱をしっかりとしたものに作り上げていくつもり、でも時々同じ作業をしていると、他の小物を作って遊んでみたくなるんです」と見せてくれた小物は、大作で使った木の端口を取っておいたものを組み合わせたり、刳物を作ったりと次から次へと出てくる作品たち。
どれもこれも欲しくなるようなものばかりだ。
大きなものにも挑戦したい
「こんなのも作ってみたいんです」と一枚の写真を見せてもらう。平卓(テーブル)だ。パーツを組み合わせることでこんなに大きなものができるのか。
平卓には強度も必要、緻密さも必要、貼り合わせたところは特に気を使う部分だ。
もっと勉強をするという向上心
退職後15年以上木工芸をしている政近さんは「最初は材料なども凝りがなく、どこにも習いに行かず自己流でやっていた」というが、公益財団法人・日本工芸会の正会員に認定されている今でも、時々県南の師と仰ぐ人の工房に通い研鑽を積んでいる。
まだまだ探求心が旺盛だ。
山の里の工房での作品に期待
これからも政近さんの作品を見たい。
色々な機械に囲まれた工房で、一度に多くの作品を見せてくださったことに感謝しながら、久米南町ののどかな環境で作品作りに没頭する政近さんに敬意を表するとともにまた来てみたいと思いながら冬桜やロウバイの咲く山の里を後にした。