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棚田を見つめて 北庄中央棚田天然米生産組合西河明夫さん

傾斜面に階段の様に水田が並ぶ。一目千枚の棚田。
山や木々など自然と共に織りなされた風景は絶景と呼ぶに相応しい。
『日本の棚田百選』にも2件選ばれている久米南町の棚田。
今回、棚田についてお話をしてくれたのは、北庄中央棚田天然米生産組合の組合長である西河明夫さんだ。
久米南生まれの久米南育ち、根っから久米南を愛する68歳。地域を愛する気持ちはだれにも負けない。




棚田景観再生活動を始めたのは、今から約25年前。
県が推進する補助事業「棚田天然米産地育成事業」と「棚田地域営農条件等整備事業」に取り組む為、北庄中央地区の農家34戸中25戸の賛同を得て設立された団体になる。
県の補助事業が終了した後は、暫くの間は、補助事業の時と同じ内容で地域活性化活動を続けていたが、農家の高齢化に伴い徐々に離農者が増え始め、ついには15年前頃には北庄棚田の中でも一番景観の良い場所でも、休耕田・耕作放棄地が目立ち始めようになる。




日本の田舎の原風景である棚田は、四季を通して人々に癒しと感動を与えてくれる。
その景観が、数年で限界集落・故郷消滅により、観られなくなる可能性もある。
平成19年夏から棚田を守る為、ひいては故郷を守る為、棚田景観再生と維持活動を決意する。
地域住民の賛同を取付け、当地を訪れていたカメラマンや棚田ファンを会員とする棚田支援隊を組織した。
地域住民も、生産組合員の一員として活動に参加する。




先ずは、休耕田の草刈り・景観作物の植栽で景観再生活動を開始。
その2年後には、棚田保全に協力的な企業団体が名乗りを上げてくれた。
協働を重ねた末に、稲作体験等のイベントを開催するなどの新たな取り組みも始まった。
景観を守る。
それは、新たな休耕田や耕作放棄地を出さない。
今でも関わる人たちの想いは、ひとつだ。





景観再生・維持活動を続けるうちに、街から来る人たちと地域住民との交流が増えてくる。過疎化した地域に活気を運んできてくれる。
高齢化が進む地域に子供達の元気な声が響き渡る
北庄から、小学生がいなくなって久しいが、町内の小学校との「田んぼの学校」という取り組みで児童が来てくれる。




孫のような児童達との交流で、地域の笑顔が増えた。
近年、棚田景観再生活動を通して町外から訪れる人々が徐々に増え、棚田景観維持に対する気運も高まる。
毎年、棚田での作業体験や交流を楽しみにしてくれるファンが増え、会員同士の繋がりが密になってきた。




それだけではない。
棚田景観維持と癒し空間で栽培されるお米のファンが増加し、地元民の米栽培に対する意識が高くなった。
生産組合の活動理念「苦農から楽農」が、少しずつですが形となって見える様になってきたという。



苦農:棚田での農作業は、草刈り・水の確保・労力不足・高齢化を背景に、ついつい口から「ネガティブ」な言葉しか出てこない作業。

楽農:棚田での作業は苦農の連続であるが、平均月1回の都市住民と笑顔の交流で、この「苦」をリセットできる少しでも楽しみのある作業。





棚田での活動で苦労した点を尋ねたが、「自分が楽しくなければ実施しない。参加者と笑顔を共有する為には! をモットーに活動してきたので、棚田での活動での苦労はなかった」との回答。
全てに前向きな西河さんらしい回答で、かなりポジティブだ。




今では、米問屋や消費者に天コシ(安全安心の栽培方法に拘った櫨干しコシヒカリ)の良さが認められた。
一般のお米と異なる『ブランド米』として通常のより高い価格で取引してもらえるようになったため、農家も積極的に棚田米の栽培と組合への供出に協力してくれるようになった。
棚田景観再生の協力会員も天コシ・棚田米の消費者として販路拡大に協力してくれている。
目指すは、棚田で栽培される棚田米の更なるブランド力強化と、販路拡大による販売量の増大。
そして、25年前迄の棚田景観に再生し、田毎の月を写す『水鏡の棚田景観』を復活させたい。




「棚田には、数々の文化・遺構に支えられた財産が埋もれている。
『食』『景観』『文化』を融合させた棚田にしかない「人の心を癒す」を観光資源として地域に新風を吹き込み、活性化に結びつけたい」そう締めくくってくれた。

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