切絵作家 池田泰弘さん
切絵作家、池田さんは、津山市久米町に在住する。今回、ひょんなことから、取材をすることになった。
国道181号線から山際に入っていったところにある、実家の『池田農機』で創作活動をしている。その実家に訪れての取材だ。
入るとすぐ左の壁に作品が飾ってある。どれを見てもかなりの存在感だ。まず驚いたのが繊細であるにもかかわらず、かなり力強い印象を受ける縁取りのラインと、華やかで大胆な色使いだ。
池田さんが切絵に出会ったのは高校2年の時、今から15年前のことだった。小さいころから細かな作業が得意だったとのこと。
実は池田さんは自閉症があるそうだ。そんな中、高校進学の時期に、普通高校に進学するべきか特別支援学校(当時は養護学校)に進学するかの岐路に立ったという。
池田さん本人は、普通高校に進学したいとの思いがあったそうだが、担任をはじめ、周囲の声は「自閉症に対する専門プログラムがある特別支援学校に進学した方が、本人の将来の助けになる」ということで、本人は納得できないままでの進学となったそうだ。
本人の意に沿わない進路であったため、生活に気力もなくなるような日が続いた。
そういった中、ご両親が池田さんに「何とか自分に自信を持ってもらいたい」と、何かいい方法はないか模索し、方々を訪ねまわっていたある日、吉備高原センターで切絵の体験講座が開かれることを聞いて来た。池田さんも興味を持ち、早速申し込みをした。
これが師事をすることとなった岡本裕さんとの出会いだった。
体験講座に通ってみると、面白く時間も忘れ没頭できる。「とにかく面白かった」という。
講座に通い始めてすぐの頃、中国の切絵でもある『剪紙』を知った。
最初に興味を持ったのが三国志の登場人物の『剪紙』。「これに色が入ったらきれいになる。やりたい」そんな思いが湧きあがったそうだ。
すぐに剪紙の構図を元に、制作作業に取り掛かった。まだ習い始めたばかりで、どうするのか分からない事も多くあったが、我流で工夫しながら何とか作品に仕上げた。
完成して、すぐに講師の岡本さんの所に持ち込んだ。
岡本さんからは、「技法は自分とは違うが、色使いが素晴らしいので、作れるだけ作ってみて下さい」といわれた。
わずか数週間で30作品を作り上げた。
それを見て岡本さんはすぐに、自分の展示会を池田さんとの二人展として開催してくれた。
これまでに、アルネで2回岡本さんとの二人展を、M&Y記念館で個展を開催してきた。
M&Y記念館で開催した個展では、津山の風景を作品にしたものを展示した。
この、津山の風景を作品にしたものにはモデルがある。津山市内にある江見写真館の所蔵している古写真だ。ある日ある新聞に載っていたのを見て、これを切絵にしてみたいと閃いたそうだ。今までに、古写真をモデルとした津山の昔風景の作品は40点近く作成し、自身の顔となるシリーズとなっている。
古写真は白黒、当時の色合いを含めた風景を再現する作品作りを目指しているが、分かりにくいものも多いのが大変だという。色々と聞き込みなどもしながら調べつつ創作活動を行っているそうだ。
その後、ディスカバリージャパンの表紙や日本を代表する盆栽の斎藤さんとのコラボで展示会を開くなど活躍の場が広がっている。
しかし、今年は新型コロナ感染症の関係もあり、展示会の多くがなくなったそうだ。
それでも今後の活動方針について、「歴史上の人物を漫画風にしてみたい」であったり、奈良時代、戦国時代(鎧)、平安時代(衣冠)など昔の衣装で人物を中心にした作品にも取り組んでいきたい。また、古事記、日本書紀などの神話も題材に取り入れていくのも考えているとのこと。他にプラモデルのパッケージのような感じの題材も試してみたいと創作意欲は旺盛だ。
さらに題材について依頼があれば対応をすることも検討しているそうだ。ただし、一ヶ月弱ほどの制作時間がかかる。創作活動はデリケートで集中力が持たないのだ。一日で数時間しか作業ができないこともある。作品は大きさによっても異なるが8万円~12万円と、作業量からすると、かなり低価格で譲っているため、金銭面ではそれなりに大変だ。
それでもコツコツと創作を行っている。自閉症など障害を全面に出し、メディアなどに売り込むようなことをせず作品で健常な作家とも切磋琢磨していく。
そんな姿勢の池田さんの作品が、この先もっと幅広い方に知ってもらえて、人気を博するようになってもらいたい。