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若い世代で津山の未来を

介護タクシーしえんた 寺坂実成さん

 津山を中心とした岡山県北で介護タクシー事業をスタートさせた寺坂さん。
創業にあたっては、山陽新聞社や中国銀行が運営する岡山県の地域密着型、クラウドファンティング『晴れ・フレ・岡山』で自己資金や借り入れで賄えない部分の資金を獲得しての出発だ。

 介護タクシーとしての事業スタートから約2カ月、医療機関や介護施設などへの出入りもあり、新型コロナ対策には、かなり気を遣っているようだ。
「自分自身の手洗いや消毒はもちろんですが、利用者が利用した後は、その都度車両を消毒するのが大変です。でも最近は慣れてきて、1回が20分程度で終わる様になりました」と話してくれた。
そもそも、こんな大変な時期に介護タクシーを目指したのは、一昨年寺坂さん自身のお祖母さんが入院した際に、送ってくれた介護タクシーの運転手が高齢であったのを見たことが、きっかけとなったとのこと。
自分の祖母とあまり変わらない様に見えるドライバーが、病院への搬送を行っている。老々介護の状況を目の当たりにし、「本当にこれで良いのか。若い自分たちの世代が、できることが、もっとあるはず」と思ったという。




 実は学校を卒業してすぐに、介護業界に携わっている訳ではなかったということだ。高校を卒業して、三年間サラリーマンとして介護以外の業種で働いていた。
とはいえ、美作高校の介護福祉コースを卒業し、高校在学中に介護福祉士の資格も取得しており、介護に対しての知識や理解はあったのだ。
そもそもだが、介護コースに進んだのは、岡山県北で野球の強かった美作高校で野球をしたかった、といった理由で、介護に興味があったわけではなく、資格が取れた方が良いといった理由から介護福祉コースを選んだだけだった。在学中に勉強したり、実習に出たりして行く中で、介護の重要性や楽しさを知った。
卒業してからすぐは、介護職より給料が高い仕事に就いたが、先に紹介した自身の祖母の入院から、介護の重要性を再確認した。

 創業に向けては、創業者向け融資や貯めて来た自己資金、さらに足りない部分はクラウドファンティングで補いなんとか車両の準備をしてきた。
介護タクシーは、車両購入などの初期投資が必要となり、まだ22歳の寺坂さんにはハードルが高い。また自動車2種免許も、18歳で1種免許を取得したとしても、21歳までは取得資格がない。
そのため、全国でも最も若い介護タクシー開業者となった。
高齢の要介護者からは、「若いというだけで喜んでもらえるんです。若い人と話をすると元気になるって」と非常に評判がいいという。
そんな、介護タクシーの稼働の内訳を聞くと、最も多いのが病院だそうだ。高齢者施設への送迎や移動などより倍近い割合となるのだそうだ。
それには理由がある。通常は病院から病院への移動、転移搬送と呼ばれる移動については一般的には民間救急が行うことが多い業務だ。




しかし、美作地域には民間救急が1件もないのだ。
大都市であれば純粋な民間救急だけでなく、病院が関連企業として民間救急会社を持っていたりもする。それが人口があまり多くない美作地域では巨大病院もなく成り立たないのだ。
そのため、行政の救急車が転移搬送でも度々出動することとなっている。
消防署の救急車の台数が限られていることもあるのだろう、症状の軽い転移搬送の場合は、寺坂さんに搬送依頼がくるのだという。
内容的には民間救急の業務範囲に近い仕事だ。そのような仕事をこなしていくうちに、医療や福祉の現状を知ることとなり、最近は民間救急が必要だと思い始めたとのこと。どうしても今の介護タクシーでは、提供できるサービス範囲には限りがある。
自分が貢献できるのであれば、何とかしたい。という思いが強いのだそうだ。
しかし、介護タクシーと異なり、消防署などによる認定が必要になり、ドライバーだけではなく、患者の介護を担当する乗務員も同乗しなければならないなど条件となる基準も厳しくなる。
民間救急という夢をかなえるために、志のある人との出会いを大切にしているのだそうだ。
今は介護従事者が本当に少ない。その中にあって若い人となればなおさらだ。しかし、介護士の資格を持っている人は少なくない。後輩となる美作高校、介護福祉コースに通っている人や卒業生にも、自身が頑張っている姿を見てもらって介護の職に進んでもらいたいとの思いもあるそうだ。
今日も『しえんた』の介護タクシーが街を走っている。そして、明日も明後日も走り続けるのだろう。

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