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郷土の文化財と共に

美咲町文化財保護委員 角南(すなみ)勝弘さん

 美咲町の飯岡地区にある『月の輪古墳』をご存じだろうか?
1953年(昭和28年)に当時の飯岡村の村民を挙げての発掘調査を行い、その様子を記録映画やスライドを残したことで、話題となった古墳だ。
今回、話を聞いた角南さん。美咲町文化財保護委員をしているが、同時に『月の輪古墳を語り継ぐ会』といった組織の代表もしている。
現在83歳の角南さん。発掘調査時は中学生だったという。この調査は地域住民が大きくかかわった旧飯岡村あげての大事業だったという。
当時の話を聞くと、発掘の前年には村が文化財発掘の条例を策定し予算を付けた。
住民は文化財保護同好会を編成し、さらに村内の各種団体と連携して総動員の体制をとった。調査前には、雑木林の伐採や雑草の刈り払いを行ったり、調査拠点となる小屋を建てるなども住民が行い、調査に入ってからは手伝いだけではなく、炊き出しなども村民が行い調査を全面サポートしたのだそうだ。その他にも広報や勉強会など様々な担当を決め、各自担当者が責任をもって行うように取り決め、その費用は住民のカンパで賄ったのだ。
そんな発掘調査をしていた時期に、多感な中学生時代を過ごした影響で考古学に興味を持つようになり、その後、教員の道を選ぶようになった。




 冒頭でも書いたように、このような住民あげての発掘調査の一部始終をドキュメンタリー映画としてやスライドなどに記録したことで、それが飯岡村モデルとして話題となり、その後の調査作業に影響を与えるようになったのだ。
この記録映画の作成は実は発掘調査が始まる際に、最初から映画を撮ろうと計画されていたそうだ。
そのため発掘調査の準備と同時に、映画の制作会社などとの打ち合わせが行われたという。その映画の反響があって、今まで国内だけでなく海外からの視察もあった。




 角南さんも中学校教員として地元で社会科と英語を教え、美作中学校の校長を最後に退職した。退職後は月の輪古墳の調査についての講演を、東京や広島など各地で行ってきたという。
今、角南さんが会長をしている『月の輪古墳を語り継ぐ会』では、古墳について語り継ぐだけではなく、古墳付近の雑草の刈り払いなどの整備事業も、ボランティアで行っているのだ。
まだ月の輪古墳を見たことない人は、是非一度、実際に訪れて見て欲しいという。さらに麓にある月の輪郷土館には、発掘の出土品が展示され、予約は必要だが8時~17時の開館時間内に誰でも無料で見ることができる。
飯岡地区では、「月の輪おどりの夕」と名付けた祭を開催し、月の輪古墳の調査を記念した盆踊りや、飯岡地区のコーラスサークルも月の輪古墳をモチーフとした歌を披露するなど地域を盛り上げる。古墳をはじめ文化財に対する意識は地域に確実に根付いている。





しかし、現状に対しての課題や不安もある。発掘調査の記憶は高齢の人にしか残っていない。70代半ばの人でも覚えている人が少ないのだ。
そんな中、「今の若い人に今までの活動を知ってもらい、それを語り継いでほしい」というのがこれからの課題であり、角南さんの強い願いだ。
地域の宝物は月の輪古墳だけでなく、協力して調査を行った歴史と誇りなんだと感じた取材だった。

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