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命と情熱を昆虫標本で表現する

津山市二宮 小枝正和さん

 ある人物の紹介で出会った津山市二宮在住の小枝正和さん。
今、小枝さんの芸術活動が話題を集めている。その名も『昆虫標本アート』といい、博物館などで展示してある昆虫標本とは全く異なり、標本箱の中で昆虫標本を様々な形に配することで、生命力や情熱を表現しているのだ。
今現在で、同様の表現方法を用いているのは小枝さんだけで、世界で唯一無二の『昆虫標本アーティスト』だ。




写真を見てもらうと分かるのだが、昆虫の美しさを集積させた綺麗なものや、その生命力を感じさせるものなど、小枝さんの作品からは力強さが伝わってくる。
「昆虫などの美しさや生命力をもらって“命”生きる事について表現したいんです」そう話してくれる小枝さんが、生きる力に拘って作品を制作をするには理由がある。





 5年前に津山市内で自動車の大事故にあい、意識不明、頭蓋骨陥没、くも膜下出血、脳挫傷など、生死を彷徨う惨事に見舞われた。
救急車で津山中央病院に運ばれ、ほとんどの身内が死を覚悟したほどの事故だったという。
九死に一生というが、それ以上に厳しい状態から一命を取り留め、今は日常生活を送るだけなら、何不自由ない状態まで回復したのだそうだ。




しかし運動機能的には、ある程度は回復したものの、脳挫傷の後遺症の影響も有り、常時職場に出勤し仕事をこなすのは辛いという。そういった理由から、休職と復職を繰り返す状態だそうだ。





 この昆虫標本アートを始めるきっかけは、事故で入院している時に、ネットで昆虫標本を知ったことに始まる。捕食者に食べられないように生きていく為に保護色を使った擬態や、警告の意味を持つ警告色などで捕食者を遠ざけるなどの、昆虫が生きていく為の工夫から、美しさと力強さを強烈に感じたのだ。




見てすぐに「これで、自分自身も無くなったかも知れない命の、尊さと逞しさを表現しよう」と思ったという。
標本箱の中にプリザーブドフラワーを入れ、虫が集まる姿を作りだしたり、落ち葉を入れ擬態を再現させたり、生きる力、状況に合わせ変化していく力をテーマにイメージを具現化していったのが、今の作品なのだ。





 昨年、ポートアート&デザインツヤマで個展を開催し、テレビ、新聞などに取り上げられたこともあり、大きな反響を得た。今年、3月12日からは標本箱メーカーである美咲町のティーウッドでも、常設展示が始まり、現時点で小枝さんの作品が、ここしか展示していないこともあって評判も上々だ。




「この作品を見てくれた人に、大きく羽ばたきたいという勇気を持ってもらいたい。そのためのきっかけに、なって欲しい」そんな思いで、作品を展示しているのだそうだ。
実は、今後の作品展示が決まっているところも、すでにある。




まずは、東京は参議院議長公邸のエントランスに、5月10日から1カ月間、石の彫刻家『絹谷幸太』さんの作品と共に、小枝さんの作品が3点展示される。国内外の要人の目に触れる場所への展示だ。
続いて、蒜山郷土博物館へ6月4日から7月18日までの展示が決定している。





 作品の制作作業についても色々と聞いてみたところ、繊細な作業もあって、作品を仕上げるのに時間も相当かかるのだそうだ。
広げた羽を扱う場合は、かなり気を遣うという。また触覚も折れやすくて、繊細な作業の連続となるそうだ。
現段階で使っている昆虫は、蝶、クワガタ、カブトムシ、カナブン、蜂、などの定番の物から、昆虫ではないが、タランチュラなどの毒蜘蛛、サソリ、変わったものではガラガラヘビやウミガメも使い作品制作を行っている。




リアルに見せるため、ハチの巣や、砂、木の枝なども入れて作るが、必ずしも自然界にあるがままを再現している訳ではない。作品には実際に「この虫とこの虫は絶対に一緒にいることはない」といった組み合わせもあるのだ。
その虫の持っているイメージと、色や形などで、自分のイメージを具現化しているに過ぎない。作品の中で、リアルを創作しているとと言う方が分かりやすいかもしれない。
そこが、小枝さんの拘る『生命力』と『情熱』への表現だともいえる。





 取材するに当たって、小枝さんに、是非書いて欲しいと要望されたのが、正和という名前についてだ。
この正和という名前は、両親が「正しく生きる」「平和に暮らす」といった意味で付けてくれたという。小枝さんが大事故にあって「正しく生きる」「平和に暮らす」といったことの大切さや大変さを思い知ったのだそうだ。
そして、この「正しく生きる」「平和に暮らす」を深く考えた時に「生命力」と同じなのだと感じた。言ってみれば両親の想いが、自分の命を繋げてくれたと思えるようになったということなのだ。
そして、この『生命力』をテーマとすることで、今の作品にたどり着いた。
そのことから、両親には感謝してもしきれないと思っているという。




 これから、もっともっと地元の美作地域の人に作品を知ってもらいたい。そして作品から『命』を感じて欲しい。と願っている。
そして作品から感じる『命』が力となって、地域を盛り上げる力となって欲しい。そんな思いも込められている。
機会を作って、小枝さんの表現する『命』を感じることで、見る人も何かが変わるかも知れない。

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