アットタウンWEBマガジン

第二の故郷は果実香る山里

きよとうファーム 平泉 繁さん

 真庭市の北房は、地元の人たちによる、地域の活性化活動が盛んな地区でもある。
コスモス、ホタル、イルミネーションなど、今までアットストーリーでも度々、北房で活躍する人を取り上げて来た。
今回は、北房地区は下呰部。北房振興局から2キロほど北へ入った場所。山間に広々した農地が広がる、そんな日本の故郷のような場所にある。
『きよとうファーム株式会社』の社長、平泉繁さんを紹介する。
 平泉さんは、元々地元の人ではなく、実は移住組なのだ。元々は、田舎暮らしに憧れが強く、特に農業をしたいとか、果物を作りたい、といった拘りは、一切無かったそうだ。ただ、「田舎暮らし=農業」といった、漠然とした思い込みがあったことで、躊躇なく農業の世界に飛び込んだという。
25年前に「農事組合法人 清藤」に新規就農を契機として参画し、昨年、果樹を主に販売する「きよとうファーム株式会社」を立ち上げ奮闘中だ。




 清藤では、訪れた人に採れたてフルーツを買ってもらったり、楽しんでもらえるよう、カフェ兼直売所を5年前に新設した。
そのカフェや直売所は、現在はそれぞれ事業者として運営されている。まずカフェの方は、以前アットタウンでも紹介した北房の谷本さんが、そして直売所の方は、平泉さんが『きよとうファーム』として運営している。
その両方が、果樹園に囲まれた一棟の中に同居して、利用しやすい環境になっている。 今回、まず話を聞いていく中で、最も印象に残ったのが「ここでないと、他では手に入らないものを作りたい」という言葉だ。




『清藤』は葡萄、梨、桃などのフルーツを3.8ヘクタールで栽培している。
しかし、岡山県は温暖な気候ということもあり、フルーツ王国として全国でも広く名を馳せている。その中で、県内の他の産地に埋もれてしまう可能性があるのだ。
他の県内産に埋もれない、北房に来てもらって、北房の商品を買ってもらう、そんな品種を選び、栽培をしているという。




例えば、岡山県で桃と言えば『清水白桃』が有名だが、清藤では『夏かんろ』『美輝』『大玉あかつき』『まどか』『なつおとめ』など、頭の中が??となるような、今まで聞いたことのない名前の品種が多いのだ。栽培している品種は、それぞれ特徴的でもある。
『夏かんろ』は、早生で小玉、甘みが強く、ほのかな酸味がする、濃厚で柔らかい。
『大玉あかつき』は、桃としてはかなり大きく、300~350gもあるにもかかわらず、緻密で多汁、高糖度となっている。
その中でも、特筆するのは、『蟠桃(ばんとう)』という品種。押しつぶされたような、サルのお尻のような平な形が特徴の桃だ。
形が珍しいだけではなく、ある伝説が残っている。西遊記で有名な孫悟空の話だ。話は孫悟空が、まだ三蔵法師と共に旅に出る遥か以前の話となる。





“孫悟空は、天界の一員となり果樹園を管理することに。果樹園には桃が3600本植えられ、手前の1200本は3000年に一度実をつけ、食べると仙人になれ、真ん中の1200本は6000年に一度実をつけ、食べると不老不死になり、一番奥の1200本は9000年に一度実をつけ、食べると天地があらんかぎり生き長らえる……とされていた。孫悟空と猪八戒が、奥の9000年に一度実をつけるという桃を勝手に食べてしまい、八卦炉に封じられた”




実は、この話に出てくる桃が『蟠桃』なのだ。
甘さ、強い香り、マンゴーのような独特の食感が人気の品種だが、栽培するには「実が割れやすく難しいところがある」品種だそうだ。このことは、葡萄や梨でも同じだ。葡萄は作業期間が集中する為に大変だが、特徴ある品種を取り揃えやすいため、栽培は最も多い。




 そして、清藤で作っていないものは、真庭市内の農家から、直接仕入れて販売しているのだという。
 直売所と同居している、谷本さん運営のスイーツカフェも、清藤の果物を使ったフルーツパフェやフルーツピザが雑誌で紹介され、人気になっている。また、こちらも以前紹介した北房の主婦などで活動している『ママン』のフルーツシロップも並んでいる。
「都会とは違う山里ならではの賑わいのある地域になって欲しい」という思いも現実になりつつある。
様々な取り組みのおかげか、訪れる人は地元だけに留まらず、県南や広島や関西からも、常連客としてくる。数年前にオープンしたキャンプ場帰りや、ツーリングの途中の人もいるが、この場所を目指してくる、そんなお客さんも増えている。
この直売所とカフェが、新たな地域の集客に貢献しているのだ。





 下呰部や北房について、こんな感じになれば? などの思いはあるのか聞いたところ、「きよとうファームを通じて若い世代の人たちの可能性を、大切に育てて行く応援をしていきたい。その輪が地域全体に広がっていけばいいなと思います」と答えてくれた。そんな言葉を結びとして、今回の記事を締めくくりたい。

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