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女流書家 山下虔華(けんか)さん

 つい先日までアルネで開かれていた書道の展覧会『理波展』。その会場で、ひときわ目を引いたのが、立体的に書と融合した「火の輪」と題された大きな作品だ。
現代では6月末に全国各地の神社で夏越のお祭りを行う。その際に置かれる茅の輪を模して制作された作品となる。





毎年、テーマに沿った作品を創造し展示するという『理波展』、今回は「燃えよ!~炎のごとくに」というテーマで、ダウン症のこども達が書いた火の文字を、躍動感をもって立体的に見せるという展示方針の元で、出来あがった作品となる。
この展示会を主催した『遊之会』を主宰する女流書家が、今回紹介する山下虔華さんだ。
虔華さんのブログには、この「火の輪」という作品について、以下のように説明書きがされているので、紹介する。





“理波展会場は茅の輪ならぬ 芭蕉葉の「火の輪」を あひるの会~ダウン症児親の会の 皆んなと制作しました。 沢山の方々が 8の字回りで笑顔になりました。” 

説明の「沢山の方々が 8の字回りで笑顔になりました」の言葉にある様に、一般にあるような書道展とは趣が異なることが、よく分かると思う。
他にも『ありがとう』の書を展示する時に、塔のように縦に丸くして、高さを出して展示するなど洒落を利かせたりと、書としてだけではなくユーモアも取り入れた、色々な意味で立体的となっている芸術展だ。





 ここまで読んでもらえばわかる様に、この理波展は、以前アットタウンでも紹介した、ダウン症をはじめ心身障害児の療育と福祉向上、人権保護を目的として、県北地域で活動している「あひるの会」のこども達も参加している。
こども達の個性豊かな作品を、展示現場ではどう表現して見せるかを皆で工夫し、想像もしなかったアイデアが、回を重ねるたびに溢れ出てくる。
設営時間が限られている中で、協力しながら創り上げる楽しさを、皆の笑顔が語ってくれるのを実感する時でもある。
こども達の展示以外にも、額縁もパネルもない作品を、そのまま壁に貼り込み展示するなど、いままでにないような展示方法をと模索している。





 山下さんの主宰する『遊之会』は、仮名書を主体とし、実用書など、書道一般、師範を目指す指導も行っている。
老若男女を問わず幅広い層の会員で構成され、冒頭で紹介した『あひるの会』親の会は、国連が制定した世界ダウン症の日に向けアート書を指導し、理波展で発表している。それも今回で、10回目を迎える。
来る人拒まず。
書を始めたい人は、大人、こども、性別関係なく、誰でも大歓迎だという。





 他の書道展に行ってみたことがある人は分かると思うが、出品してある作品は、主宰している先生と本当によく似た作品が多いのだが、『遊之会』には、全くそれがない。
実は、これは本当に珍しいことだということを、知ってもらいたい。
山下さんの個性を大事にする指導方針が、こうしたところからも伺える。そのような方針での指導になったのには理由がある。
実は山下さんは、書道家としては非常に珍しい左利きなのだ。
書道で、左で書くというのは、実は凄いハンディキャップなのだ。
漢数字の一を書くときを思い出してほしい。書道は筆を立てる事が基本だが、これが難しい。多少なりとも筆が傾いてしまう。
右利きなら、僅かな傾きなら引く動作になるので問題はないが、左利きは押す動作になる。特に払いなどを書く場合には、すっと引き上げる動作が、押しながらでは上手くいかない。
これを克服するためには、本当にきれいに筆を立てる必要があるのだ。





 左利きを矯正するため、4歳の時から近所にある書道(硬筆)教室に通わされた。
そこの先生が厳しいしつけを重視しており、日が落ちるまで、何枚も何枚も書かされたのだそうだ。
涙ながらに鉛筆を持つが、書く文字に力が伝わっていない。
「人の三倍しなさい」という先生の教えで、左右両方で書けるようになった。今思えば、感謝以外の何物でもない。

 山下さんは、左利きの人でも、毛筆は右手で書けるように指導している。
自分のこどもの頃とは違い、今は「褒めて伸ばす」ということだが、しっかりとポイントを押さえた指導はしたいという。
また、多人数が集まって書くと、右と左が、かち合い隣の人の邪魔となる。
思いやりや気配りも、分かって欲しいという意味もあるようだ。

 今回の山下さんを取り上げた記事を読んで『遊之会』に興味を持った人も居るかと思う。インターネット環境にある人は、まずは『山下虔華』で検索してブログを見てもらうことをおススメする。
山下さんが今続けている活動を応援する気持ちを込めて、この記事を締めくくりたいと思う。

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