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ワールドチャンプを目指すのは、心優しい力持ち

真庭市蒜山 パワーリフティング 樋口重敏さん

 真庭市蒜山に世界チャンピオンを目指して、トレーニングを続けている人が居る。
競技はパワーリフティングのベンチプレス。『マスターズ1』という年齢が40代のカテゴリーでのチャレンジだ。
その中でも、体重120kg以上で上限のないクラス、スーパーヘビー級選手となる。
今年も、2月18日、19日に愛知県にある岡崎中央総合公園第一錬成道場で開催される、全日本ベンチプレス選手権大会に優勝すると、日本代表として、南アフリカで開催される世界大会に出場できる。




 昨年のリトアニアでの世界大会、優勝記録は310kgだったそうだ。樋口さんは、今年に入っても練習で何度も300kgを挙げている。上手く転がれば、この世界大会でチャンピオンにもなりえる実力を備えているのだ。




 そんな世界チャンピオンを目指す樋口さん、しかしベンチプレスを始めたのは29歳からだという。
そもそもスポーツはずっと行っていたというが、中学、高校時代は陸上競技で長距離を走っていたという。
長距離走とパワーリフティングでは、使う筋肉の質が全く違う。遅筋という赤い筋肉を使うのが長距離走。これに対し、速筋という白い筋肉を使うのがパワーリフティング。





 こどもの頃から、遊びの中で長い距離を走っていたため、走る事に苦はなかったのだそうだ。そのため自然と長距離走が速くなり、選手として選ばれるようになる。そのせいか自然と陸上部に入り、競技として長距離走をすることになったという。
しかし筋肉の質からか、徐々に体重が増えていき気が付けば70kgを超え、記録も伸びなくなってきた。
それでも走るのが好きだったため、高校を卒業後、専門学校に進学して21歳の頃まで、市民ランナーとして、大会にも出場していたのだそうだ。
それが、体重が90kgを超え、身体に重さを感じて、高校生に太刀打ちさえできなかった時に、市民ランナーを止めることを決めたという。




 市民ランナーを止めて、筋トレに興味を持ち始める。その中で、縁があって極真空手をするようになった。
初めて間もなく、それなりには強くなり、試合でも勝てるようになって地区大会などでも優勝するようになったが、それ以上の成績が収められなかった。しかも、その原因は自分でも自覚していたのだ。
試合で、対戦相手と向き合っていて、相手にダメージを与える打撃を入れるタイミングは分かったが、そこでダメージをもらう人の気持ちになってしまい、最高のタイミングで打ち込めない。「心が優しすぎた」のが影響していたのだ。




しかし、極真空手は、師であったひとが支部長になるなどしたこともあり、そのまま続けて、四国での新たな道場の立ち上げなどにも携わったりするなど、かなり、どっぷりと関わっていたが、まだ、若かった当時、交通費や宿泊費などの、全てを自腹で賄うことができず、やむなく辞めることとなった。
極真空手から離れた後、しばらくの間は、スポーツをしていなかった期間が続いたそうだ。

 27歳の頃、父親が蒜山で開業した農機具整備の会社を手伝うために、帰郷することになった。蒜山に帰ってきた時も、ベンチプレスはおろか、スポーツは何もしていない状態だった。




29歳の時、樋口さんが、ベンチプレスと関わるきっかけとなる大事件が起こる。
機械に足を挟まれてしまったのだ。足は、骨と筋が繋がるだけのブラブラしている状態で病院に運ばれる。「普通で考えれば切断するしか考えられない」といった状況だったらしいが、なぜかその時処置した先生が、無理やり縫合して足をつなげてくれたという。
手術が終わってからも、お医者さんからは、「もう、足は動かないと思ってください」と言われた。
しかし樋口さんは、それで落ち込むことはなく、安静が必要と云われている時に、それを無視して、足から血を流しながら、それを引きずり、勝手に自己流リハビリを開始した。
樋口さん曰く、「300kgのものを挙げるなんか考える人間ですから、考え方がぶっ飛んでたんでしょうね」だそうだ。




「安静するようにうるさいので、喧嘩になって退院しました」というのが僅か半月。
退院して歩くだけでは、体が弱っていくと考えて、筋トレをすると決めて倉吉のジムにいく事となった。そこで、初めてベンチプレスと出会ったのだ。
まさにこれが運命の出会い。怪我以降、身体が弱っていたはずなのに、足から血を流しながら練習を始めて、わずか数日で120kgを挙げてしまうのだ。
その後、勧められて試合に出場し、ベンチプレス界のレジェンド、津山の『石本直樹』さんと出会い、ベンチプレスにのめり込んでいった。





 世界では、各クラスの優勝者を日本選手が占めるなど、日本のレベルは世界でも高い。しかし重量級においては、若干事情が異なる。世界には、化け物のような選手が多くいるというのだ。
そんな世界大会で、化け物を相手にチャンピオンを目指す樋口さん。
しかし、日本代表として、世界遠征するのも大変だそうだ。実は協会からの支援は一切ない。ユニホームすら自腹購入するのだそうだ。
大変な思いを乗り越え、世界で戦い『ワールドチャンプ』として、県北まで凱旋して来てくれることを願いたい。


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