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実に短歌はおもしろい

【掛詞】
以前に和歌の修辞法のなかで掛詞の説明をしたことがあります。
いわゆるダジャレにあたり、一つの言葉で複数の異なる意味を表現します。
例えば、私が即興で読んだ以下の歌。

足引きの 初日の出ゆる 頂きへ
 僥光浴びつつ 『おもい』も新た 


末句の「おもいも新た」について、もっと他に言葉があるのでは?と思う人も多くいると思います。
しかし、この“おもい”「重い」と「思い」の掛詞になっているのです。
“足引きの”とは、“頂きに”を導き出すための形容句で、枕詞になります。
意味は、山を登る際に疲れて足を引きづって登るという意味と、山すそまで山の稜線が引きづるように伸びていくという意味の両方を持っているとされます。

ですから、思いも新たの「思う」と、山を上がるのに足が重いという、2つの関連する意味を持たせているのです。   

最も代表的な修辞法である掛詞ですが、その代表が以前にも紹介した、在原業平の「伊勢物語」東下りの歌です。

唐衣 着つつ①なれにし ②つましあれば ③はるばる④来ぬる 旅をしぞ思ふ

意味はこのようになっています。
着慣れた唐衣のような、妻を都に残し、はるばる旅に来てみたが、侘しさをしみじみ感じる。

この中で掛詞が4つも使われています。
番号をうっているので分かりやすいと思いますが、①の「なれにし」は着慣れた衣と新鮮味がない妻という意味で使っています。②の「つま」は妻と着物の裾を意味する褄を掛けています。③の「はるばる」は、着物を張るという意味で、洗い張りの張りと遥々来たの「はるばる」です。④の「着ぬる」衣の素材である絹、衣を着るの着、そして遠くまで来たの来の3つを掛けています。

この歌は、掛詞以外にも様々な修辞法が使われていますが、今回は掛詞に絞っているので、また機会を設けて詳しい説明をしたいと思います。

このように縁語(関連性のある言葉)を使って、一つの言葉に複数の意味を持たせるのが掛詞です。今で言うなら「ねづっち」の『ととのいました』のハイレベルバージョンです。
在原業平は言葉遊びの天才とされるだけあって「さすが」と感心しますね。

ただし、現代の言葉は平安の世と違い、数が驚くほど増えているということもあり、業平のように4つの掛詞を入れながら、縁語や折句など、他の修辞法も使うという、神掛かったレベルの歌を詠むことは不可能になります。
しかし、4つとは言わないまでも、縁語、掛詞だけを使うことは、今の言葉でも充分にできます。慣れてくれば、複数の掛詞を織り込んで、詠めるようにもなるでしょう。

まずは、ひとつだけでも掛詞を使って、歌を詠んでみてはいかがでしょうか?
私以外にも、近代短歌の登場で否定された修辞法を、現代口語にのせ歌を詠む、そんな勇気のある方の登場をお持ちしています。

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