8月25日 奈義町豊沢の奈義町文化センターで、NPO法人風まくら主催の映画上映会が行われた。
監督・撮影。語りは、信友直子さん(東京都)。
広島県呉市で両親が暮らす様子をひとり娘の信友さん自らカメラを回し記録した「ドキュメンタリー映画 ぼけますから、よろしくお願いします。」
同映画は娘の視線から、認知症の母、耳の遠い父の老家族を描いた作品。
2016年9月に関西テレビ「Mrサンデー」で2週にわたり特集され大反響を呼んだ。
奈義町小坂のデイサービス、居宅介護支援を行う風まくら 相談センター管理者の岡部久美子さんが「ぼけますから~」を知ったのは、岡部さんが担当している方の介護者から「この映画を上映して欲しい」と持ちかけられたからだ。
「ぼけますから~」は、信友さんの父母の日常生活の記録。
母は87歳(昭和4年生まれ)、父95歳(大正9年生まれ)高齢夫婦が呉市でささやかに支え合っている。
ある日、しっかり者だった母の異変に気付く。
買い物の内容や、物忘れなどは2014年1月にアルツハイマー型認知症と診断される。
離れて暮らす娘にとっては自身が乳がんになった時に明るく支えてくれた母、手作り服をいつも着ていた記憶、書道が得意な自慢の母だったのに。
そして父は高齢で耳も遠い、この年までリンゴの皮一つ剥いたことがなかった父、明るく社交的な母に支えられていた父がはじめは一人で、のちに家事の支援、デイサービスを利用しながら淡々と母を支えていく。
時に穏やかに、時に話がかみ合わずあきらめ、時に激しくぶつかる父母。
その日常にカメラを回し続けた信友さんが父母への愛と尊厳を持ち制作した映画だ。
490席の同センター会場は満席。
「映画上映を提案したところ風まくらスタッフみんなの応援、力を借りながら今日にいたりました。そして日曜にもかかわらず、チケットを購入してきてくださった皆さんに感謝の気持ちでいっぱい、満足して帰られる様子を見てほっとしました」と岡部さん。
デイサービスセンター風まくら管理者の古山満亀恵さんが上映前に「介護されている方、している方、介護職員の方、ご家族、ご近所など色々な立場から、映画を見て持ち帰っていただけたら」と言ったように、それぞれ観客は何かを持ち帰っている表情だった。
「ご夫婦で頑張っている感じで、伝わるものがあった」と勝央町の介護職員・山下富美子さん。
「身につまされる思い、高齢になると自分の事しか考えられなくなる寂しい現実を見るようでした」と奈義町の高村令子さん。
「お父さんの方は粘り強く支えていた感じ、怒らず温かく忍耐強いと思いました。お母さんの方は自分でできなくなるつらさは意地があるからだと思う、夫婦や親子の事を見直すきっかけになった」と津山市の矢野富美子さん。
それぞれに映画を見て持ち帰ったものがあると確信した。
岡部さんに、奈義町で映画を上映してほしいと持ちかけた、奈義町の有元寛子さんに会えた。
「私は今、介護をしていますが楽しく介護したいと思っています。不安な気持ちになる時もありますが福祉の制度などに助けてもらいながらがんばっていきたいと思います。信友さんのお父さんの姿をみたら、強く穏やかで、素晴らしい対応で感動しました」有元さんもとても穏やかに話してくれた。
岡立さんは「これが私たちの行く末かと少し不安になりながら愉しく見る事ができたのは、父の鼻歌まじりの介護のせいかな。少しずつ笑顔で受け入れることを学びました。行政には体制づくりを、小さな心遣いは地域でお互いに連携することが大切だと感じました」と話した。
誰もがいつか向き合う日。
「お互いに頑張りましょうで どっちかおらんようなったらさびしいけんね」と父に言って笑った母、「めいわくかけるね としとったらね」少し寂しそうな母、「ぼけますから、よろしくおねがいします」大晦日、呉恒例の汽笛をききながら娘に言った母。
どんな時も夫婦、父、母、娘、家族。
時にドリフターズのコントのように見える、ちぐはぐな夫婦のやり取りに会場は大笑いだったが、会場の隅っこで泣いている私がいた。
(取材ライティング・武本明波)