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雰囲気たっぷり『紙芝居おじさん』

津山市高野 先本廣司さん

 今、美作地域で話題を集めている紙芝居おじさんこと『先本廣司』さん。
最近、テレビや新聞などの記事でも話題になっているので、知っている読者もいるだろう。
鳥打帽(ハンティングハット)にダボシャツ、ニッカポッカを履き、足元は地下足袋と、まるで戦後の遊び人を思わせるようないで立ち。
真っ黒な自転車と大きな荷台に置いた紙芝居用の箱。まさに戦後からタイムスリップしたかのような世界観の中で、子供たち相手に紙芝居を上演する。




先本さんが、本格的に紙芝居に取り組むようになったのは、昨年2022年の夏に開催された、大阪の「中之島公会堂」で行われた『なにわ紙芝居寄席』への出演を誘われてから。
それまでは、趣味の鉄道模型の展示を頼まれたときに、図書館で借りて来た紙芝居を、合間に見せるという感じだったそうだ。
それが、『なにわ紙芝居寄席』の出演が決まった2月から、本格的にオリジナルの紙芝居を書き始めたという。





 「エンターテイメントは、まず恰好から」と自らが言うように、作業服の量販店を回り、イメージと合う服装を探して揃えた。自分で設計図を書いた紙芝居の箱や、荷台を溶接して切り継ぎするなど大きくし、黒色に塗りなおした自転車の改造。これらをすべて自作した。
戦後のこどもの頃に見て夢中になった、紙芝居のおじちゃんの雰囲気に、どうしても近づけたかった。この格好で大阪に乗り込んだところ、評判がよく自信を深めたのだそうだ。




 美作地域では、湯郷温泉でのイベントの際に定期的に行う他、今月より、昭和の日からは、大原でも武蔵の里で土日にすることが決まった。
津山エリアでは、高野小学校で定期的に子供たちのために開催する他、放課後教室でも子供たちを前に紙芝居をしている。
初めて紙芝居を行った湯郷温泉では、想定以上に子供たちが集まり、後ろの子供たちに聴こえないといったトラブルも起きたため、今ではピンマイクを使用している。
先本さん曰く、紙芝居も大道芸の話芸だという。声色の使い方や声の大きさ、トーンの使い方で同じことを話してても、聞く方からしてみると全く違う。
小道具を使い音を出したり、浪曲風や講談ふうに話したり、スキルアップの為の工夫に余念がない。





 そもそも、紙芝居を始めたかった理由が、今の子供たちはコミュニケーションが不足しているのではないかと感じたからだ。
昭和の時代は、近所の年寄りが子供たちに、声を掛けたり叱ったりした光景が、あちらこちらにあった。しかし今では、世代を超えての交流は普段の生活の中では、少なくなっている。
それがコロナ禍となって、さらに減少している。このことを先本さんは、かなり危惧しているという。
「できれば3世代で紙芝居を見に来て欲しい」そして「家族のコミュニケーションのきっかけにして欲しい」そうした思いを込めて、日々活動しているのだそうだ。
先本さん自身も、子供たちの楽しそうな顔や、喜ぶ顔に元気を分けてもらっているそうだ。
最初は黄金バットなどの既存のキャラクターのストーリーを自分流にアレンジして紙芝居を作っていたが、最近では、地域に残る民話や地域で口伝として残る昔話を中心にしている。
美作地域の昔の文化や、今との違いなども知って欲しいとの思いからだ。今、持っているのは20作品。そして、次に取りかかろうと思っている題材は『川辺の狐火』という話。これも地域に残る昔話だ。





 紙芝居が終わって、子どもたちに「面白かった!」と言ってもらえることが、最高の誉め言葉だという。
しかし、紙芝居の劇中で、「宿題はちゃんとしろよ」「親や先生の言うことは聞くこと」など、子どもたちに苦言も言っている。
ただ、楽しいだけではなく、楽しい中でも色々と諭すことも重要だと考えている。
これも、昭和に多くいた近所の子に怒る年寄りの役目になればと思ってのことだ。

 今、サッカーJ2のファジアーノ岡山から、今月のレノファ山口との試合の日に紙芝居の依頼が来ている。
他にも、冒頭で紹介した大原の『武蔵の里』もそうだが、老人福祉施設からも打診があり、詳細を詰めているところだという。
 先本さんの希望としては、お年寄り向けには『まぶたの母』や『国定忠治・がん鉄』などの旅一座の温泉芝居のような、内容にしたいということだ。

 あちらこちらからの問い合わせが増えているが、規模の大小は関係なく、出来る限り出向いて紙芝居を見せたいという方針だそうだ。
そんな先本さんの思いが、美作地域の子どもたちにも伝わって、明るく楽しく礼儀正しい子どもたちが育つよう応援したい。

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