アットタウンWEBマガジン

@歌壇 短歌への誘ひ

2024年12月18日

花便り季をめぐり来し石蕗(つわぶき)の
いまを盛りに群れ咲ける庭
宰務 とき子


●まさに晩秋の庭を一際彩る石蕗の花を詠み込んだ短歌である。
殊に葉はモミジなど色付いて艶やかではあるが、晩秋にかけて目を引く花は少なくなってくる中で、ハッキリとした濃い黄色の石蕗の花は、ややもすると弱々しくなってきた陽射しに、庭のたたずまいまで薄暗く感じ始める一画を、明るめるかのように石蕗の花にその存在感を思い知らされることがある。
 短歌はこの歌のように「一点集中」し庭の石蕗だけを詠む方がその歌の焦点がぼやけなくて良い。初心者の短歌ほど一首の中にあれもこれもとつい、てんこ盛りに詰め込んで詠んでしまうのだが、逆に読む側にいったいこの作者は沢山詠み込んだ中の何を一番伝えたいのだろうか?とすべての表現が薄れてしまう場合が多くなる。
 その点でこの掲出歌は、季節が巡ってきて今年もわが家の庭を明るめる石蕗の花が群れて咲いてくれた!と作者の喜びの顔が浮ぶように端的に詠まれ、巧みである。
 


暑き午後エアコン入れて読書する
青空に雲平和な暮らし
早瀬 榮


●今年の夏は猛暑を通り越して“酷暑”と言われ、随分気候変動や地球温暖化が話題にのぼった年であったが、作者はその酷暑にも日々悠然として動じない。
 自身の日常をゆったりとした短歌に詠み込まれ、ほのぼのとした表現に終始している。世の中はやれ酷暑だの異常気象だの騒いでいるが、私は外が暑い時は日がな部屋の中でエアコン付けて本を読みながら平和に暮らしていますよ! と。(笑)
 さて掲出歌であるが、このままの歌でも決して駄目とは言わないが、スッテプアップ出来そうな部分は、下の句の四句目なのだが「青空に雲」はこの歌の中で少し疑問?に感じる。この歌では部屋の中でエアコンを付けて読書しているので、外の様子はあまり必要な情報とは思えない。初句の「暑き午後」が有るので、青空はほぼ想定内である。それより、「老いたる日々の」と作者自身の情報を入れられたら「暑き午後エアコン入れて読書する老いたる日々の平和な暮らし」と良歌になる。



明るさに遠回りせし夜(よ)もありて
彼(か)の日を顕(た)たす今宵の月光(つきかげ)
川上 悠子


●短歌を作る上でもっとも大切な事は短歌の定型、つまり五七五七七の流れである。
勿論、作者の歌心を詠み込むことは目標の第一であるが、ともすれば歌への思いが強すぎて、つい、あれもこれもと一首の中に詰め込み過ぎになりがちである。
 当初、この歌も作者が月夜の明るさに誘われてつい遠回りした想い出が強すぎて
「昼のごとと遠回りの夜もありしかの日のやうな今宵の月あかり」と詠まれていた。
 しかしこれだと、「昼のごとと」六「遠回りの夜も」八「ありしかの日の」七「やうな今宵の」七「月あかり」五、となり六八七七五で定型の五七五七七から外れ歌の流れが悪くなってしまう。そこで大切なのが勉強会としての歌会の役割なのだが、作者が詠い込んだ内容を極力大切にしながら、指導者が参加者や作者本人と話し合い五七五七七の定型に近づけて「明るさに」五「遠回りせし」七「夜(よ)もありて」五「彼(か)の日を顕(た)たす」七「今宵の月光(つきかげ)」八となり、勉強の良い歌材となった。



ふる里へ向かふあずさは右を取る
雲を押し上げ八つ峰高し
小林 賀子


●掲出歌は東京の秋の明治神宮短歌大会で特選に選ばれた、我があさかげ短歌会の編集委員、小林賀子先生の歌で、二千四百首余りの中から特選十首に選定された。
 作者は以前信州岡谷にお住いであった。長年あさかげ短歌会の岡谷支社や諏訪地域の短歌界でご活躍されていて、筆者も三十年来親しくお付き合いさせて頂いている大先輩である。現在は様々なご苦労を経験された岡谷を離れ、共通の短歌を趣味に一番仲良くされているお姉様が住まれている東京に転出されて、今は都北支社の支社長として、またあさかげ短歌会の関東地域の編集委員をそのお姉様である村松紘子先生と共に、横須賀の武部靖江先生や千葉の伊藤すみゑ東京事務所長先生を盛立てて、ご多忙な中あさかげ短歌会の会員の為に大変なご尽力を頂いている。
 大先輩の掲出歌を鑑賞させて頂くのは非常に僭越極まりないのだが、東京から信州方面に向かう列車「あずさ」から望む八ヶ岳への描写が巧みで高く評価された。




今月の短歌

朝日受け
染まる深紅の
満天星(どうだん)の
垣根の外に
冬の気配す

矢野康史



矢野康史さん プロフィール

あさかげ短歌会津山支社代表。全国あさかげ短歌会代表。津山市西苫田公民館と一宮公民館の2カ所で短歌教室を指導している。津山市文化協会副会長。



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