アットタウンWEBマガジン

@歌壇 短歌への誘ひ

2024年11月18日

つつましい幸福茄子の花言葉
 因みに好きな色は茄子紺
神崎 民枝



●作者の夏野菜である茄子に対する熱い想いが表現された一首だと感じられる。
ただし、このままでは一か所だけ少し読み手に作者の思いが伝わらない箇所がある。
この歌の場合、初句と二句目が句跨(くまたが)りつまり「つつましい幸福」の9音と「茄子の」の3音になり、このまま読むと「つつましい」「幸福茄子の」「花言葉」「因みに好きな」「色は茄子紺」と短歌には5・7・5・7・7と読むリズムがあり、そう読まれると読み手は(幸福茄子)という品種のナスが有り、その花言葉が「つつましい」のかと思われてしまい、作者の思い「つつましい幸福」が「茄子の花言葉」との意味で詠んだこの歌の本意が伝わらないことになってしまうのである。
ここはほんの一字付け加えるだけで解消できる方法がある。短歌の添削は本来は、作者の元歌をできる限り変えないで、良くする。この短歌はその典型的なケースで「つつましい幸福が茄子の花言葉」と「が」を入れただけで流れも良くなるのだ。

稀にみる日照りに耐える野菜らに
 週に一度の水遣りを詫び
初岡 勢津子



●今年の夏の猛暑を詠った短歌は誠に多い。ただそのとんでもない暑さを歌に詠み込む方法は一概ではなく、作者の技量によってさまざまな作品になってゆく。
この作者は拠ん所無い理由があり、野菜を植えたは良いが週に一度しかその畑に行って水を遣れないのであろう。植えた野菜に対して詠み、今年そんなに暑くなるとは思わなかった!と心の裡では野菜たちに言い訳している様子が見てとれる。
さて掲出歌であるが、巧く纏められているように見えて少し勉強になる箇所がある。このままの歌でも決して駄目とは言わないが、ステップアップ出来そうな部分はまず下の句、「週に一度の水遣りを詫び」は「週に一度の水遣り詫びる」と終止形で結句をきちんと止めた方が着地がどっしりとするように思える。いまひとつは、「に」が四か所使われている。特に中ほどの「野菜らに週に一度の」部分の「に」は「野菜たち」とすれば一つ「に」を減らし流れを良くする方法と思える。

突き破るガラスの天井その先の
 空の青さにわが身の奮う
福島 明子



●この短歌はそのまま読んでも、例えば作者の感情が何かで昂ってガラスの天井を突き破ったとしたら、その先の空の青さに身奮いしてしまう。と解釈することが出来る歌なのだが、筆者はこの歌を頂いた時にもっと大きな意味を持つ短歌ではないか?と深読みをし私自身少なからず衝撃を受けた。
折しも、この十一月はアメリカの大統領選挙が行われ、先達て七月二十一日に民主党の大統領候補が八十一歳のジョー・バイデンからアフリカ系女性のカマラ・ハリス現副大統領に変更され、共和党のトランプ氏と戦う事になったのだ。
「ガラスの天井」とは職場や社会で目に見えない形で存在する出世や昇進などにおける性差別や人種差別をいう言葉であり、特に女性の前に立ちはだかる大きな関門を「ガラスの天井」として使われるのだ。作者はハリスがこのガラスの天井を突き破る瞬間を夢見て「わが身の奮う」と詠んだのだと理解している。秀歌である。

恋文は海馬の記憶に隠された
 ワンフレーズを永遠とする
丘野 美登里



●「恋文」「海馬」「記憶」「ワンフレーズ」「永遠」と魅力溢れるワードがこの一首に詰め込まれ、「隠された」で読み手を迷宮に誘い込む。不思議な感覚の歌である。
海馬はご存知のように人間の脳のほぼ中心に位置し、左右一対で存在しタツノオトシゴの形状に似ているところから名付けられたそうで、記憶を司る。記憶の中でも新しい情報がこの海馬に一時的に保管され、あまり使われないと海馬は必要とされていないと認識しすぐ忘れてしまう。その情報が必要と認識されれば一時保管されていた情報は大脳皮質に長期保存されるといわれている。認知症になると新しい記憶ほど分からなくなるというのは、この記憶が定着するまでの一時保管する大切な海馬の衰えによるものと言われる。齢と共に衰えていくばかりの脳細胞の中で唯一増やすことのできるのが海馬だそうなので、希望を持とう。さて、「海馬の記憶に隠されたワンフレーズ」とは何という言葉だったのか?ミステリアスな歌である。

今月の短歌

八雲立つ
出雲の丘の
夕あかね
悠久の歴史(とき)
風にたゆたふ

矢野 康史




矢野康史さん プロフィール

あさかげ短歌会津山支社代表。全国あさかげ短歌会代表。津山市西苫田公民館と一宮公民館の2カ所で短歌教室を指導している。津山市文化協会副会長。


【短歌作品募集】
矢野さんの短歌や短歌教室の生徒さんの歌を毎月掲載中。読者からの短歌投稿も大歓迎です。皆様の投稿をお待ちしています。〆切は毎月月末となります。お気軽にご応募ください。




【アットタウン】
読者投稿はinfo@afw-at.jp「読者投稿係」まで

【あさかげ短歌会】
TEL:090-7373-7476
FAX:0868-27-1791

新着情報

人気記事

新着記事