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文語体と近代短歌

 近代短歌の一般的な定義は、時期は明治から昭和初期にかけて、詠まれた歌とされており、文語体と旧仮名を使ったものとなります。
ただし、現代に詠まれた歌でも、文語体を使い旧仮名を用いた歌は、近代短歌に分類することがあります。

 まず、文語体について「なにそれ」レベルで全く分からない人が多いと思います。
それもそのはずで、小説、短歌、詩など文学で使われることがほとんどす。
普段に使うとすると、明治生まれの教養人が、目上の方に送る手紙くらいで、日常生活で使用することは、まずないものです。
今、生きている人だと、文語体を知っている人でも、文章を書くときだけに使われる古い文体といった認識がほとんどです。
 そもそも日本は、古くから会話で使う言葉と、文章に書く言葉が異なっている状態で、発達してきたのです。
それが、明治になり識字率の向上が求められ、教育制度も変わってきます。
その際に、より分かりやすい口語体を文章でも使おうという『言文一致運動』が起こります。その結果、文語体を使う人が少なくなっていきました。
そういった経緯から、限られた人しか文字を書くことが出来なかった時代に、書くときのみに使われていた文体が、格式高い言葉として祀り上げられ、美しく、気品に溢れ、格調高い言葉として、評価されていくことに、なったのではないかと考えられます。

例としてよく使われる森鴎外の『舞姫』冒頭です。
“石炭をば 早積み果てつ。
中等室の卓のほとりはいと靜かにて、
熾熱燈(しねつとう)の光の晴れがましきも徒(いたづら)なり。”
私達が普段話している口語体とはかなり異なった趣に感じられるのではないでしょうか?

 そして、この文語体とセットのように使われる文字が、旧仮名(古典仮名)です。
い「ゐ・ヰ」え「ゑ・ヱ」など文字自体が使われなくなったものと、「けふ」「でせう」のように、今の読みと全く違うものがあります。
よくあるのが、語頭以外の「わ・い・う・え・お」の多くが「は・ひ・ふ・へ・ほ」となるのですが、全てがそうという訳ではありません。
昔の文章でも、まちまちに表現されているものもあり、正確に使うことは当時の人でも難しかったのであろうと、推測できます。

実際に旧仮名使いは「いろは歌」でも分かります。


いろはにほへと(いろわにおえど)    色は匂へど
ちりぬるを(ちりぬるお)        散りぬるを
わかよたれそ(わがよたれぞ)    我が世誰ぞ
つねならむ(つねならん)        常ならむ
うゐのおくやま(ういのおくやま)    有為の奥山
けふこえて(きょうこえて)    今日越えて
あさきゆめみし(あさきゆめみじ)    浅き夢見じ
ゑひもせす(えいもせず)        酔ひもせず


現代の仮名遣いしか知らないと、仮名を見て漢字が見えてこないでしょう。

 それでは、旧仮名は完全につかわれなくなったのでしょうか?
実は、現在でも旧仮名を含む文語体が、使われているものがあります。
それが近代短歌の世界なのです。しかし、この近代短歌は、文語体が現代の言葉になじまないことや、仮名使いの難しさから、徐々に廃れています。
現在では口語体を使う現代短歌が主流となっていますが、これも若者短歌、SNS短歌と呼ばれる歌に変化してきています。
また、他の使用例として、固有名詞で使われている例があります。
ヱビスビールやアヲハタ乳業などが、それに当たります。
このように、廃れていったとは言え、名残のように生活にも残っており、スマートフォンなどの文字変換等でも出てきます。

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