アットタウンWEBマガジン

「短歌への誘(いざな)ひ」

2023年09月15日

@歌壇


梅雨晴れに早苗さ揺らぐ里山は
 空の青さと郭公の声

堀内 あい子


●この短歌を読まれてすぐ、作者の作為(技法)を感じられた方は、ある程度の短歌経験者だと思う。一見ありふれた短歌と思える一首であるが、二句目から四句目にかけて「サ行」の韻(いん)を多く踏まれ、四句目の「そ(・)らのあおさ(・)」まで含め五個も鏤(ちりば)められて詠まれてあり、この短歌一首の流れを巧く生みだされ、現代短歌に旧来の和歌の言葉遊び的要素を加える技法に、果敢にチャレンジされて素晴らしい。
この歌の作者は、あさかげ短歌会津山支社に入会された時、同級の友人に誘われて通い始めたと記憶している。二十年程前の事であるが、その当時から独特の世界観を持たれていて、短歌というよりは童話や絵本に近い作風を、ご自身が気にされて「私みたいな下手くそな短歌は皆さんに恥ずかしいから歌詠みにはなれない」と言われ、「いやいや、その他人に詠めない歌を作れる長所を伸ばせば良いので」と引き留めた事を、今でも新鮮に覚えている。そして最近頓(とみ)に力を付けて来られた。

紫陽花のミラーボールを打つ雨の
 生まれ在所はヒマラヤの峯

白井 真澄


●この作者の作品のファンはとても多く、津山の短歌会でいつも大変人気な方だ。
短歌を読めば白井ワールドの独特の世界に引き込まれてしまう。この歌の場合も、紫陽花をミラーボールと表現し、梅雨の雨に打たれて光る紫陽花をショーのステージの天井に回りながらキラキラ光りを反射させている照明器具に見立てるなど、あまり思いつかない比喩を使い、読み手をまずこの短歌の迷宮に引きずり込むのだ。
 そして、その紫陽花を打ち付ける「雨」の生まれ在所は遠く離れたヒマラヤの峰である。とし、一気にこの短歌を地球全体から詠まれた壮大な歌に仕上げている。事実気象学的にいえば、八千㍍級の山が十四も連なるヒマラヤ山脈が無ければ、日本に梅雨は存在しないといわれている。ヒマラヤの峯で起こった風が南北に別れ日本の北でオホーツク海高気圧になり、南からの太平洋高気圧とぶつかり合って雨を降らす梅雨の現象が起きる。卒寿の作者は未だ博識で、やたらファンが多いのも頷ける。

梅シロップ暑さ凌ぎに今年もと
 瓶を揺すれば梅はにっこり

信清 小夜


●今年の夏の暑さは尋常ではなかった。実は今筆者は大学で気候学を学んでいるので、千年前の平安時代も太陽活動の活発期のため、現在よりもっと気温が高かった事を六国史などの史料から知り、宮中の女人たち夏は彼の十二単は着られなかったのでは?とあらぬ方に思考を巡らせてしまうのだが、当時の自然現象による温暖期と、現在の人間活動による温室効果ガスや、オゾン層の破壊など人為的な温暖化は当然分けて考えなければならない。このままでは確実に年々猛暑日が増えていく。
 さて掲出歌だが、作者は毎年のように夏の暑さ対策のために、夏バテ予防に効果が有ると言われている梅シロップを瓶に作っているのである。この一首、「梅」が二ヶ所有ることを問題とされる方があるようだが、上の「梅シロップ」はシロップとしての固有名詞と捉えると、筆者はそれほど気にしなくて良いと思う。作者は初句と切り離す配慮をし、結句に「梅はにっこり」と表現し高く評価のできる短歌である。

蛍飛ぶ今宵は何か佳き知らせ
 ある予感して携帯握る

井上 襄子


●蛍の成虫の期間は約二週間と言われている。サナギから成虫になる期間がずれても殆ど一年を通して蛍を見られる期間は約三週間の夜二~三時間程のものだろう。
 蛍は極地や水の無い砂漠以外、人間が暮らしている場所で、川や沼といった水があり小さな巻き貝が生息している場所であれば、世界中に二千種類以上が分布していて、意外と知られていないのは卵の時から成虫まで通して発光をしているという。
 古来、蛍は遭遇する時期が短く儚いことなどから、風流な昆虫として和歌によく詠まれてきた。「恋告げ虫」とか「鳴かぬ蛍が身を焦がす」など艶めかしく詠まれたりもしている。作者は前触れもなくふっと近くに現れた蛍を眼にした時、軀に何か電流のようなものが瞬間に奔ったと感じた。それは何なのか自分にもよく分からない。しかし、「何か佳き知らせある予感」がしたのだ。初句と結句のみが現実として
詠まれていて、特に結句で予感が期待感に変化している作者を表現して巧みである。



今月の短歌


くきやかな
入道雲の
湧く空を
焦(こ)げ付く声に
鳴く油蝉


矢野 康史



矢野康史さん プロフィール

あさかげ短歌会津山支社代表。全国あさかげ短歌会代表。津山市西苫田公民館と一宮公民館の2カ所で短歌教室を指導している。津山市文化協会副会長。



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