アットタウンWEBマガジン

短歌への誘ひ@歌壇

2024年01月16日


フジバカマよアサギマダラを呼んでくれ
 今年も我が庭素通りなのか
信清 小夜


●フジバカマは秋の七草としてよく知られている。

キク科の多年草で一㍍ほどの高さに淡紅紫色の頭花を密に咲かせ、芳香が有るため庭や玄関先によく植えられている。

そしてアサギマダラはマダラチョウ科の翅を広げれば約十㌢前後の蝶で、翅に淡青白色半透明の(浅葱色)斑紋が有りゆるやかに花の蜜に集まる美しさが最近人気である。

この美しい蝶は翅にマーキングをした調査で二千㌔を越える距離を移動する事が知られ、春は台湾など南方の海を渡り北海道方面へ飛び、秋は逆に南の海を渡って旅をする。その旅立ちの前の栄養補給にフジバカマが群生している地域でアサギマダラの乱舞が最近の報道でよく知られるようになり、作者は我家の庭のフジバカマにも蜜を吸いに集まって来い!と切望しているのである。


 初句のフジバカマへの語り掛け、三句までに願望を端的に表現し、下の句で残念な結果を推定させる歌に仕上げている。蝶も花も大好きな作者らしい短歌である。



猛暑日もやっと過ぎたりもうこれで
 涼しくなると炬燵用意する
河原 洋文



●昨年の秋は残暑が厳しく「沸騰列島」などの造語も報道されていた。

地球温暖化が国際問題として取り上げられ、世界全体で何度も話し合われているが経済や産業重視の中国やインド、世界のリーダーを自負しているアメリカまでも温室効果ガス(二酸化炭素やフロンガスなど)の削減の提案に消極的である。
 歴史的な調査では奈良・平安時代までは現代より気温が高かったという学説も、太陽の活動周期から当然考えられるし、今後数百年の周期で小氷期(今より低温期)が巡ってくる予想を唱える学者もいる。だが、今の温暖化の原因を作りだしているのは人為的な行為で、太陽の強い熱や有害な光線から地球全体を守っている大切なオゾン層を破壊している事が大問題で、壊せば元の状態に戻せないのである。
 さて掲出歌だが、上の句で作者が音を上げた猛暑の日々もやっと過ぎたと表現し下の句でさっそく炬燵の用意をするとし、暗に秋が短いのではと想定している。



廃屋の木の間陰にて秘やかに
 あまた咲きたる白き山茶花
稲垣 晶子



●一読して情景が浮かんで来る一首であり伝統的な文語調短歌の真骨頂のような短歌である。作者は比較的街中の住宅街に暮らして居られる。最近はどこの街にも見られる現象だが、昭和の時代に多くの人達が暮らしていた立派な住宅街でさえ、今や歯抜けのように人が住まなくなった家が点在し、その家が立派な庭付きのお屋敷であれば、余計に庭の木々が伸び放題に荒れ果てて廃屋の無情さを強く感じさせる。「街中の過疎地」と言われている町内も確かに存在するのだ。
 以前住まれていた方が、愛でるために植えられていたであろう真っ白な山茶花(さざんか)の花が、その家の前を通りかかった作者の目に飛び込んできたのである。今では美しく咲いてくれたと愛でてくれる主人(あるじ)も無く、荒れた庭の木(こ)の間(ま)の陰に隠れるように咲いているのだ。三句目の「秘やかに」と下の句の「あまた咲きたる白き山茶花」が巧く対比させてあり初句の「廃屋」の無情さを更に強める表現になった。巧い。



留守番の夫への土産あれこれと
 なぜだか私の好物ばかり
河原 弘子



●前出の短歌と並べて表記させて頂いたが、前のオーソドックスな短歌と比べればその違いが一目瞭然である。かといってこの一首見劣りするかと言えばそうではないと筆者は思っている。

「廃屋の」歌は伝統的な文語体短歌の格調高い良さを持っているが、この「留守番の夫(つま)への土産」の歌は口語調現代短歌の爽やかさと何げない気付きを感じさせて、そう言えば自分もそうだよなあと納得させられる。
 このあたりが今の若者に受ける現代短歌の「普段着感覚で短歌を詠む」良さなのだろうと思う。伝統的な文語調短歌には格調高い調べという良さが有り、そのため情景描写の表現に優れているが、この歌のような生活そのものを短歌に詠むには、文語調短歌が隆盛だった時代の生活からはあまりにも生活環境や生活感が変ってしまい、今の時代の生活描写や人の内面を歌に詠むには、現代短歌の方が一般の人に理解され易いから口語調現代短歌が主流になりつつ有るのだと思う。



今月の短歌

柚子浮かべ
手足を伸ばし
湯に浸(つ)かる
木枯し小僧の
ぴゅーと啼く夜

矢野 康史



矢野康史さん プロフィール

あさかげ短歌会津山支社代表。全国あさかげ短歌会代表。津山市西苫田公民館と一宮公民館の2カ所で短歌教室を指導している。津山市文化協会副会長。



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