アットタウンWEBマガジン

短歌への誘ひ

2024年03月21日

一日の終わりを告げる夕焼けを
 追いかけるごと冴ゆる三日月

福島 明子


●この詠草を手許に頂いた頃は、立春を過ぎたとはいえ如月の未だ寒い時分であった。短歌を勉強しはじめて気が付くのだが、季節の移ろいと花や植物の名前と共に気象や天体の現象にも神経のアンテナが敏感に働くようになってくる。
 月は満月の時分は太陽が沈み暗くなる頃に東の空から昇り、明け方朝日が出る頃に西の空に沈んでいくが、新月から三日月の頃は太陽のあとを追いかけるように朝から東の空に出て昼の明るい間も中空に浮かんでいるのだが、細い月は空の明るさに負けて出ている事になかなか気が付かない。そして夕方も沈みゆく太陽を追いかけて、夕焼けの茜に染まる西空に三日月もその日の最期の姿をさらし、薄暗くなって漸く傷痕のような細い姿を気付かせてくれるのだが、落日のあとを追って二~三時間で沈んで見えなくなってしまう。季節もいつとは書かれていないが、結句の「冴ゆる三日月」で夕方空気が冷えている頃だと推量させている。秀歌である。
 


こち吹けばさざ波光る山肌に
 あんず馥郁はにかむ乙女

千葉 二朗


●「こち吹けば」は「東風(こち)吹かばにほひおこせよ梅の花主(あるじ)なしとて春を忘るな」の菅原道真公の拾遺集に有名な和歌の本歌取りでなので、この歌を読めば短歌に興味を持たれている方ならほとんどの人が、ピンとこられると思う。
 短歌をされていない方の為に補足させて頂くと、意にそわず九州の太宰府に左遷させられる朝、道真の邸の庭の梅の木を見て詠んだ歌だと言われていて、意味としては、春になって東の風が吹いたらその風に乗せて香りを九州の太宰府まで送っておくれ、梅の花よ主人が居なくなっても春に咲くのを忘れないでいてくれよ! と
 さて掲出歌であるが、この超有名な歌を本歌取りして作者の街の近くのあんず祭りに寄せて詠んだ歌のようで、3月初旬には三千本のあんずの花が咲き乱れるそうだ。結句の「はにかみ乙女」はあんずの花言葉である。「さざ波光る山肌」とあんずの花片をさざ波に喩え、秀歌である。
 


惣菜にいろは紅葉をそっと添え
 深まる秋の彩も味わう

山本 見佐子


●この短歌の作者は毎日色々な料理を作られて、安く巷に提供されている方である。仕事場にお邪魔したことがあるが、いつもキチンと清潔にされている厨房で料理好きと自負されるだけあって、彼女の段取りの良さや料理を仕上げていく早さは、まるで魔法を使っているかのようにテキパキと作る料理が商品になっていく。この歌では惣菜のいろどりとして、真っ赤に紅葉した以(い)呂波(ろは)もみじを料理に添えたとある。歌の中にはもみじの色まで書かれていないが、「深まる秋の彩も」と直接真っ赤とは書かないでこの歌を読んだ人に、その色を感じてもらう手法である。
 そしてその「いろは紅葉」は決して惣菜の味の邪魔をしないように、そっと添えていて買って下さったお客様に対して、先ずは料理を美味しく味わって欲しいと願ったうえで、その当時の季節感「深まる秋の彩(いろ)も」味わって欲しいと作られている。この短歌では(自分が)「味わう」とあるが、先ずは試食なのだろう。歌も巧い!
 
雪道にいくつか交わる足跡が
 いつも立ち寄る草むらの中

小川 壮寛


●この冬は暖冬と報道で言われていたほど筆者は温かさを感じなかった。むしろ少しだけ温かい日のあとにくる寒の戻りのほうが、油断している体に余計寒さを感じた冬だったように思える。この歌に読まれているように何度か積雪もあり、
下の句の「いつも立ち寄る草むらの中」から、犬と散歩をしている情景を詠み込まれたのではないかと思われる。愛犬家は毎日の散歩が大変なのだが可愛い家族の一員の為には、その散歩も雨だ雪だといってはおれないのである。
 朝の雪道には、作者の散歩より早い時間に歩いた人の足跡がいくつか交わっていた。ほとんどの人が雪の朝まで欠かさず散歩をされるのは、まず犬の散歩と考えてよいのではないかと想われるが、そうすると雪の中には余所のワンちゃんの足跡も混じっていて、作者がよく出会う愛犬家仲間の足跡と見覚えの有るワンちゃんがいつも立ち寄って挨拶を交わす草むらではないかと推測できる。日常詠として良歌。



今月の短歌

戻り寒
もう沢山(たくさん)と
先取りの
ショーウインドは
爛漫(らんまん)の春

矢野 康史




矢野康史さん プロフィール

あさかげ短歌会津山支社代表。全国あさかげ短歌会代表。津山市西苫田公民館と一宮公民館の2カ所で短歌教室を指導している。津山市文化協会副会長。



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