美作地域の工芸・民芸
作品の中で躍動する蛙たち
仲良しの蛙が手をつなぐ。繋がっているよ、跳ねているよ、おすまししているよ。
蛙たちのポーズにふと、頬が緩む。
河野吉雄さん(津山市勝間田町)の作品のテーマともいえる蛙たちは、かれこれ五十数年前から河野さんの側にいる幸せを謳歌する。
やさしく育ててもらってとても楽しそうだ。
楽しいから続けられた
ご自身は陶芸家ではなく「陶芸愛好家」だという。
プロとして制作しているつもりはなく、長年多彩に色々なものに興味を持ち挑戦している。
ジャズ、山登り、など深く長く楽しみながら続けてきた。陶芸もそのひとつ。
「気が多いんです」とにこやかに話す。
津山を約50年離れていたが、埼玉県にいるときに仕事の合間に趣味として始めた陶芸。
とてもレベルが高い陶芸クラブで熱心な指導をする教室だったが、続ける事ができたのは、「遊び心にあふれていたから」と初日から花見に連れて行ってもらったことを楽しそうに話し、教室のムードが好きだったから、続けられたという。
友人たちに助けられながら
作品は年に10~20作品程作る。
蛙の図柄のある作品では、赤土で形をつくる。
赤土は鉄分が多く赤黒い色になるが、そこに白い化粧土をかけ、白い画用紙に絵を描く要領で線を入れると赤土の色が線になり、白い画用紙に陶芸用の絵の具で、赤やオレンジ色、青などの色を乗せていく。
少しづつ蛙たちがおしゃれをしながら息づいてくる。
「私は窯を持っていないので、勝間田焼を復活させる会のメンバーに助けられながら窯を使わせてもらっています」。
勝間田焼は津山市のお隣の勝央町で古墳時代に朝鮮半島から伝わったという須恵器の流れを継ぐ焼物。
美作地域から山陰まで広まっていたが鎌倉時代に消滅した焼物で、それを復活させる仲間たちとの窯入れ窯出しなど、緊張感があるものの楽しんでつくられているのがうかがえる。
いつも遊び心を大切に
「お料理やお菓子を引き立てるために、白い皿を使うことがありますが、私は蛙文(図柄のこと)のお皿で賑やかに盛り付けしてもいいと思うんです。
おいしいものを食べてお料理に満足した後に、蛙文が出てきて、可愛いなあーと思っていただければ嬉しいです」河野さんなりのスタイルで日用雑器を作っているのは、根底に楽しむ心があるからに違いない。
多彩な趣味に深くかかわる
陶芸に親しむ一方、岡山県郷土伝統的工芸品の手織り作州絣の織り人として作州絣制作に没頭している。
ちょうど同市内西今町にある作州絣工芸館で、井桁の紋様に挑戦している河野さんの絣を見せていただいた。
細い糸を染め抜き縦糸と横糸の色を合わせ模様を作っている。
工程は根気が必要で緻密な作業。「手を動かすのが好きなんです」と平成27年から取り組んでいる。
ここでも仲間に囲まれ真剣ながら笑顔で機織りをしている姿が見られた。
仕事の手を止めてほっと一息つくときに、側にある器、家族や友人たちとの集いに参加しているかのような蛙たちの器。それらは明るい陽だまりがとてもよく似合う。
(取材ライティング・武本明波)