俳句好きが集まれば
津山で合流した俳句愛好家4人。少し雲行きが怪しいが吟行(和歌や俳句などをつくるために、景色の良いところや名所・旧跡に出かけていくこと)へ。
目指すは真庭市。
真庭市目木の毎来寺
住職の岩垣正道さんが、自由律の俳句をたしなんでおられ、本堂など境内に住職の自由律俳句や、版画が多数展示されていると聞いていたが、駐車場に車を止めたあたりから作品と触れ合う事ができ、期待に胸膨らませながら岩垣住職に会う。
聞きしにまさる版画の数々、モノトーンのみならず色とりどりの襖絵が約100点、格天井に張り付けたものは約130点、その他の作品が100点近くあるというのだから、版画のお寺と言われるのも頷ける。
鳥取県気高町で曹洞宗長泉寺の二男として生まれ、僧侶になるべく勉強修行していたが、商業美術やデザインにひかれていく、駒澤大学仏教学部卒業の後、横浜市の曹洞宗大本山・総持寺にて禅の修行後、縁あって真庭郡久世町目木の毎来寺28世住職として入山したのが1978(昭和51)年、翌年には「般若心経」を板に彫り始めたという。その後「荒寺」だった本堂の安っぽい襖を「絵か書を描けば新鮮な気分になるのではないか」と思い立ち「版画」を張ることを始めたという。
さて俳句愛好家4人は、寺の外観や、玄関先ではこれほどの期待をしていなかったのではないだろうか。
親切な住職に招かれるまま本堂や客間など次々に襖が開かれると「おおお~」と感嘆の声がわく。
俳句を考えている様子はなく、ただただ住職の話に耳を傾け部屋にある版画に見入り天井を見上げる。
版画は力強いものあり、やさしい仕上がりのものあり、もってりとどっしりとユーモアのあるものなどさまざまだ。しかし次から次から部屋を変わる度に出合う版画に言葉少なになった各人。
なかでも住職作の自由律俳句や道元の歌、良寛の言葉を彫ったものに裏彩色を施した色とりどりの版画には思わず言葉を失う。圧巻だ。
ある意味、涅槃図だ。
そして、歳時記と俳句ノートを手にした4人は客間に招かれお話を聞かせていただく、少し足腰が弱くなったという住職は、私たちに説明を熱心にして下さり、資料が必要とあらば「さっ」と席を立ちすぐに持ってきて実演をしてくれる。
俳句つながりという事で日々の気づきや生活の中での一こまを詠んだ562句の句集『風まかせ』(非売品)をいただく。
同行した句友が、即興句をつくれたとは思わないので住職の句集から数句上げさせていただく。
糸とんぼが庵の中に来た
うしのろのろわしのろのろはるきらきら
私は風になりたい
咲きます散りますこれからいいことあるように
(風まかせより)
住職の版画と自由律にカルチャーショックの午前中。吟行はまだ続く。
曹洞宗 毎来寺
真庭市目木1001
電話 0867-42-0932
真庭市久世の白寿庵
昼食は久世の旧出雲街道にある「豆腐料理・白寿庵」の湯葉膳。桶出し豆腐の甘さと、さしみゆばのやさしい食感。ゆっくりと味わいながら、先ほど行った毎来寺のことでさぞ盛り上がるだろうと思いきや「すごかったね~」「びっくりだね~」とべたなボキャブラリーを連発。みなさ~~ん、俳句できてますかあ?
豆腐料理・白寿庵
真庭市久世2872
電話 0867-42-0228
真庭市木山の木山神社
午後からは真庭市の落合地域にある、木山神社へ。
猫好きにはたまらない木山神社。「招き猫」がいると聞いてきた。
社務所をのぞくと、禰宜の鈴木宏志さんと招き猫「クックさん」が出迎えてくれるのだが、気になる注意書き「クックさん出勤中・・・たまに甘噛みします。曲ったしっぽは触らないで。よく寝ます」と。
でも元気なクックさんが出勤でよかった、ほっと胸をなでおろし拝殿などを案内してもらう。
鈴木さんによると、昔ながらの奥宮(本宮)は木山という山に残して昭和37年に拝殿を解体して現在の地に遷宮したという。
奥宮は県の重要文化財の指定を受けているといい、御祭神の神々は大半が須佐之男命の御子孫神だという大変由緒正しい神社だ。
そして氏子のない神社で布教活動をした神社としても有名で、参拝の方たちの志で運営しているという。
そのためなのかわからないが、拝殿の提灯!これは圧倒される!
存在感があふれる提灯あまた。
琴奨菊もプロ野球球団も、地元や国内外からの志が提灯になっているのだろうか?また奉納されている扁額には伊藤博文のものもある。
鈴木さんからはその他にも木霊のお話や摩利支天のお話など大変有意義なお話を聞かせていただいた。
私自身心に残る話もあったが、私と鈴木さんの秘密にしておこう。
奉納された提灯に圧倒されながら、小雨まじりの境内を歩く、三方山に抱かれ、鳥の声を聞きながら、拝殿裏にある清らかな御神水をいただく。
さて、おみくじタイム~~~!
招き猫クックさんは、大吉おみくじを引いてくれるでしょうか。
あれれ。
クックさんご機嫌斜め?暴れん坊?
とてもおとなしい猫だと聞いたけど「あ~ おとなしいのは違う猫です、今日出勤しているクックさんは元気でいつもこんな調子ですよ」と鈴木さん。
なんとかおみくじを選んでもらい帰途につく。
また行きたいね。
珍道中の吟行ではあったが、真庭市の深いマニアックな見どころにふれた感じ。近く吟行だけではなく「小旅行」的なものもレポートしていきたいと思います。
今回同行してくださった。
采遊さん、紺屋さん、わざわざ山口市から参加してくださった久子さん、ありがとうございました。
俳句ができたかどうかは、聞かないでおきますね。
きっととてもいい句を発表してくださると信じて。
旅鞄おろす菫のかたはらに 久子
(取材ライティング・武本明波)
南三郷総氏神・木山神社
真庭市木山1265-1
電話 0867-52-0701