日本工芸会正会員 太田史朗さん
太田史朗さん(津山市皿)の作品は、木の持つ美しさを存分に引き立てる。
思わず顔を近づけて木目や光沢に見入ってしまう。
「私の作っている作品は、指物(さしもの)といいます」指物とは、板を差し合わせて作られた箱などの事を言う。作品は正八角形や長方形の角を切り落とし八角形にしたものなどさまざま。
それが三段重ねになっており、ぴったりとした蓋がある。
その精巧なつくりはまさに職人技。
太田さんは、昭和の時代にはバリバリの企業戦士。
高度成長期を企業の要職として顧客や社員から厚い信頼で定年まで勤め上げた。平成5年に岡山県立津山高等専門学校木工科で木竹工芸にふれ、その後岡山県美術展覧会入賞を皮切りに、受賞歴多数、平成25年には津山市新魚町のアルネ津山4階の地域交流センターにおいて初の個展を開いた。
今は、自宅にて田んぼ、畑仕事をしてのんびり暮らしているが、サラリーマン時代の武勇伝は枚挙にいとまがない。正邪を明らかにし、よりよくするためにするためにとことん向き合ってきた太田さん、それは今「さしもの」に取り組んでいる姿勢にも反映されている。
「動きだしたらフル活動します」と、一年に4~5個作品を制作するという太田さんは、頭の中で設計図を描きながら、板を組み、分断、一つ一つのパーツをつないでおおよその枠をつくる作業から始まり、漆を塗っては磨き塗っては磨き、という気の遠くなる無限の工程を重ねていく。
5月にあった津山工芸愛好会主催の第50回津山工芸展では、持ち前の面倒見の良さで若い出展者に助言をしたり、展示の方法を一緒に考えたりしていた。
気さくに話しかけられる雰囲気を出すのはやはり社会経験が豊富だから、人の気持ちを考えられるのだと太田さんの姿勢を力強く感じた。
同工芸展では審査員としての出展、自身の作品は「黒柿造り角切り重箱」「神代欅造り八角飾箱」を出品した。
黒柿の美しさと各段重ねた時の木目の整ったさま、神代欅の重厚さは見る人を圧倒させる迫力だ。
「主人は成し遂げるまで、真剣に休みなくする人です」と妻の正子さん。実は太田さん5月の始めに右手の指先を、木工機械でけがをした。
大量出血で一度に3本の指先を切って正子さんに心配をかけたが「もう大丈夫です」と自動手押し鋸や自動カンナなどを設置した工房を案内してくれた。
「主人の作品もですが、木の作品は年数がたち、人の手や風にさらされると、光り具合が違ってくると思っています。
木目がとてもきれいになってくるんです」どうやら太田さんの一番の理解者であり、批評をするのは正子さんだと、お二人の仲の良さを実感。
「今後も少しずつ、自分なりに作品をつくっていきます。木工で知り合った重鎮の皆さん、工芸愛好会の仲間にも本当の技術者だなと感心する方がいます、けがをした指もほとんど治って来たので、まだまだがんばっていきます」と力強く話した。
(取材ライティング・武本明波)