湯郷Belle ゼラルマネージャー(GM)高橋寿輝さん
女子サッカー『なでしこリーグ』の2部に所属している『湯郷Belle』。取材時には、全22試合中7ゲームを消化し、6勝1分と負けなし、得失点差+26。2位につけている『JFAアカデミー福島』は6勝1負と僅かな差のように見えるが、こちらは、得失点差+17、なんと9点もの大差をつけている。
そんな『湯郷Belle』のマネージメントとスカウトを一手に引き受けているのが、GMの高橋さんだ。
女子プロサッカーリーグのしくみは、最上位にプロ選手だけで構成されるWEリーグがあり、その下に、なでしこリーグの一部と二部がある。
現在のところ、WEリーグは入れ替え戦はなく、加盟条件に達したプロチームのみが加盟することが出来る。その下にプロ選手とアマチュア選手が混在したなでしこリーグがあり、1部と2部があり、入れ替え方式となっているのだ。
この湯郷Belleの設立の趣旨は、地域貢献。「湯郷をはじめ岡山県北の知名度を上げ、関係人口を増やし、さらにはリピート化させることで、市域に賑わいを呼び込もうとすること。さらにいえば、湯郷Belleがキッカケで定住する人が出てきて欲しいというところを目指している。
実際に2011年のワールドカップ制覇の時に、代表メンバー入りしていた宮間選手の「はやく帰って湯郷の温泉に入りたい」というコメントで、湯郷温泉の知名度が一気に上がり、来訪者も増えた。
活躍し安定的に上位に入ることで、報道などでの露出が増え、湯郷・美作・岡山県北地域、そして岡山県全域の知名度を上げることにつながり、効果を継続することができるのだ。その目的を達成するためには、絶対に強くならなければならない。
2011の優勝したワールドカップや2011年の銀メダルを獲得したオリンピックでは、代表チームである『なでしこジャパン』に、宮間あや選手と、福元美穂選手の2名を送り込んでいた。当時、トップリーグであった『なでしこリーグ』の上位にも名を連ねていたのだ。
高橋さん曰く、日本の女子サッカーにおいて、チームが下降傾向に入っていった場合に、切り返して再浮上させることが非常に難しいのだそうだ。そのロジックはこうなる。
チームの力が下がり始めると、まず、スポンサーが抜け始める。それと同時に選手が引き抜かれ流出が始まるのだ。経営基盤が弱くなると、契約条件の関係からレベルの高い選手との契約が難しくなり、さらにチーム力が下がる。対策として将来性がある選手をスカウトしてくるものの、活躍出来る頃には、また他球団に引き抜きされる。これが悪循環となり、チーム力低下から抜け出せなくなるのだ。
湯郷Belleも『なでしこリーグ』上位からずるずると後退しチーム力を落としていた中で、それを挽回すべく、招へいされたのが高橋さん。
湯郷に来る前はINAC神戸という、今のトップリーグであるWEリーグで優勝を重ねる現在最も強いチームのひとつで、編成部長としてスカウトの全てにかかる責任を負っていたという。
湯郷に来て苦労しているのがスポンサー集めだという。チームが力を落とし、信頼を失った状態から、再び支援してもらうことは非常に難しい。そこで、スポンサーとしてチーム名などを自由に使ってもらうことを始めた。
考え方としては、全国でも数少ないプロサッカーチームの信用を売るということだ。もっと分かりやすく言うと、プロスポーツチームをスポンサードすることで生まれる信用を売るということだ。
様々な工夫を凝らしながらスポンサーを集めながら、その資金を使ってスカウトを強化することでチームの立て直しを図った。日本最強の球団のスカウト部長をしていただけあり、選手のスカウトには自信を見せる。「見ていると、選手の秀でたところや、足りないところが見えてくるんです」そこで、チームの補強計画と選手の将来性を合わせて考えて誰を採用するかを決めるという。そのため、監督やコーチ陣とのコミュニケーションも欠かせないという。
その中で、最も重要なことは、選手やチームが地域やファンから愛されることだという。
湯郷Belleの方針として、体力、テクニック、マインドより、スポンサーや応援に来てくれる人に対しての感謝の気持ちが見えない選手は必要ないというのだ。
また、選手は、地元の人、ファンの人、スポンサーなどの全ての関係者と、目標と意識を共有できる選手であることが、入団する必須条件だという。
地域や関係者と共に戦ってこそ、湯郷Belleの価値が出て、それがチームを強くするのだ。
高橋さんは、今年で2部を卒業し、来年は1部に上がることを前提にチーム編成を考えているという。
今後、4~5年で常に優勝争いを行うチームにまでは展望できると断言する。
しかし、その先のWEリーグ加盟は、財政面や環境整備の問題もあり、見通しが出来ていない。それでも県北全域であったり、もっと言えば岡山県全体を広域に巻き込んでいくことで、将来も見えてくるのではないかと考えている。
スポーツニュースで湯郷Belleのチーム名が連呼され、代表チームに選手を送り込む日が、目に見えるようだ。まだまだ貴重な話を多く聞けたのだが、紙面の関係からここで記事を締めなければならないのが残念だが、その日まで、他チームにGMとして移らず湯郷Belleに関わり続けて欲しいと願うばかりである。