四季折々の花が咲き誇る『笠場山 普門寺』。多くの人にとって笠場山というより『花の山寺 普門寺』という方が、馴染みがあるのではないだろうか。
春は桜や花桃、それが終わると石楠花、サツキ、ツツジ、初夏は紫陽花、秋は四季ザクラに紅葉と、いつも花に溢れ、岡山県北だけでなく県内外まで広く『花の山寺』として知られる、普門寺の奥さん和田ひろみさんにお話を聞いた。
普門寺は真言宗の開祖である空海さんが816年に開き、往年は普門寺がある田原山一体に坊や堂が立ち並ぶ大伽藍だったと伝わっているが、南北朝時代の騒乱で衰退していったという。山号の笠場山は、弘法大師が被っていた笠を、この場に置き忘れたことに由来するという逸話もある。
そんな普門寺が再び賑わいだしたのは、平成になってから。普門寺の紅葉と四季ザクラの開花時期が、ちょうど同じとなるため、紅葉と桜が同時に楽しめるとNHKで放映されたのだ。それから四季ザクラと紅葉を楽しむ人が見物に来るようになり、それに着目した地域の人達が、地域興しの任意団体『上田むらおこしの会』を結成して、普門寺と共に「紫陽花」の1人1本運動へと繋げていったのが、今の花の山寺への出発点だそうだ。
その、1人1本運動から始まった紫陽花も、今では公称で3000株(実際はもっと多い)まで増えており、岡山県下でも屈指の紫陽花の名所となっている。
紫陽花に限らず、『上田むらおこしの会』が植えて世話をしている花木は、境内のみならず寺の周辺までも覆いつくしている。
さて、今号の発刊時にちょうど満開が予想される紫陽花だが、今年も6月8日から6月23日まで『あじさい祭り』が開催される予定となっている。毎年、キッチンカー出店やマルシェなども開かれ、多くの参拝者や見物客で賑わっている。この『あじさい祭り』以外にも、300本に及ぶ『にほん石楠花』が咲く『春の花まつり』は3月末から1ヶ月近く開かれ、普門寺が花の寺となるきっかけとなった100本以上の『四季ザクラ』が咲く11月の『桜と紅葉まつり』と計3回のイベントが開催され、どれも多くの参拝客で賑わっている。
この、イベントを開催しているのが、「紫陽花」の1人1本運動の『上田むらおこしの会』なのだそうだ。
ただ、困っていることもある。一番の問題は害獣だ。猪がミミズや昆虫の幼虫を食べるために土を掘り返したり、葉の柔らかい時期などは鹿が新葉を食べてしまう。
これといった対応策がないのが現状だそうだ。また、過疎地域であるため仕方が無いのかもしれないが、普門寺と共に、花の山寺の活動をしている『上田むらおこしの会』の会員も現在は10人まで減ってきている。こちらはボランティアの人たちや普門寺の檀家が、『上田むらおこしの会』の活動に加わり、花木の管理活動を行っているのだという。
その中には、普門寺を訪れ上田地区が好きになり、ボランティアに参加するうちに檀家となった人もいるそうだ。
以前、蕎麦を提供していた花見庵も一旦閉鎖していたが、この春から団子を提供する店として、地域の方が再オープンさせた。
イベントで出店する店舗も、他の場所の方が収益性が高くても、普門寺が好きだからという理由で、毎回出店してくれている店もあるのだそうだ。
本当は、積極的に声を大にして、「花の山寺の活動に協力して下さい」と言いたいのは山々なのだが、これも縁があればということで、普門寺や上田地区を気に入ってくれて、活動を手伝いたいと思った人が、協力してくれればありがたいということだ。
これからも色々な人達の協力を得ながら、花の山寺の普門寺を多くの人に知ってもらい、足を運んでもらう。その中で、色々な縁がつながり、関りが強くなる。
これが仏教の世界で言う縁起になるのだろう。
いつ訪れても花が迎えてくれる普門寺。
今後も、普門寺とその檀家の人たち、上田の人たち、ボランティアの人たち、そのみんなが力を合わせて頂き、花木に溢れる『花の山寺』を守り、心安らぐ空間を維持発展させて欲しいとの思いを込めて、今回の記事を締めくくりたい。