アットタウンWEBマガジン

短歌への誘ひ

2022年04月14日

壮麗に雪化粧せる富士の山
 続いてほしき日本の平和

田野 孝明


●作者は県議会の県北の議員として地元の住民たちの発展を願うべく、このコロナ禍のため新幹線で2年振りの東京への出張途中、冬の美しい富士を見た。
時には中央の政治家への陳情も有るだろうし、様々な現状報告などもあるようでこの度も勝央町の寺山古墳を県の重文指定にと呼び掛け、新聞に取り上げられた。
この作者も短歌歴はまだ浅いが非常に熱心で、毎月の公民館での勉強会には公務の差し障りが無い限り歌会を休まれることはないし、まして議員バッチをひけらかせたり議員風を吹かす事無く、他の会員の中に溶け込まれて勉強されている。
 さて表出歌であるが、新幹線の車窓から見た富士山は雪を頂きに美しく見えている。昨今のロシアのプーチンによるウクライナ侵攻は、政治家を志す作者には特に心を痛める問題である。地方の発展、国の発展、世界の平和は常日頃から第一に考えている。荒削りだがこの作者らしい真っ直ぐな気持ちを歌に詠まれている。



ちらちらと降る雪に耐え咲く椿
 紅差し初むるをひと枝友に

神崎 民枝


●この作者は最近私の短歌会に興味を持たれ、友人を介して連絡を頂いた方である。未だ短歌教室には来られていないが詠草だけは戴けたのでこの場にご紹介したい。
 数年の作歌歴は有るが殆ど独学でやって来られたとお聞きした。この歌を拝見すると既にキチンと短歌の形態をほぼ整えられている。厳密に言えば三句目の「咲く椿」を「咲く椿の」とするべきであろうが、字余りになる事を考慮して「の」を省略されたのであろう。上の句のやや口語的表現に対し下の句は四句目に「紅差し初むるを」と文語的表現にして格調高く仕上げようとされている。
 この口語と文語の混合は、歌人によっては一首の中に混合があってはならぬと言われていたが、現代短歌の(表現の自由化)や古くは啄木の短歌などにもこの混合短歌が使われていて、現在の中央歌壇では幅広い表現として許されてきている。この作者がこれから我があさかげ短歌会で伸び伸びと勉強される事を願っている。



口数の次第に少なくなる夫を
 気に掛けつつも我も老いゆく

川本 素子


●我があさかげ短歌会の会員もご高齢の方が多くなり、ご夫婦で生活されていてもこの作者のようにお互いを労りながら日々を暮らされているようである。
 さて表出歌であるが、上の句にご主人の近頃の様子を具体的に表現し、下の句でそのご主人を気遣いながらもご自分も老いてゆく不安を表現している。
 日常の生活の中からふと先々の事を考えると、この歌のような心細さを感じてしまうのであろう。筆者は以前介護の仕事に従事していた経験から、男性は女性より歳をとるに従って無口になり頑固になっていく人が多く、この上の句を読んだ時、まさしくその当時の事を思い出した。口数が少なくなると同時に表情が乏しくなり傍に付いている人にも、何をして欲しいのか何をしてあげれば良いのか分かりにくくなってくる。傍で暮らしている自分もいつまでも若くいられれば良いが・・・と切実な問題を歌に詠まれて多くの方から高得点の評価を得た秀歌である。



氷点下続くなかにも水仙の
 かたき蕾は地上に覗く

岸元 弘子


●今年の冬は殊更寒く、立春を過ぎてからもこの歌のように朝晩氷点下を記録する日々が続いた。長期の天気予報では今年の春の訪れは早く、桜も例年より早く咲くと聞いていたのだが、本当に桜が咲き始めるまでは騙された心地であった。
 作者もこの寒さの中、毎日数匹の犬の散歩を欠かせないそうで、とにかく早く春が来るのを心待ちにしているのである。
 この原稿を書いている4月初旬も朝は遅霜が降り朝日にキラキラと光りを放っていたが、氷点下の朝が続きながらも着実に春の陽射しは地上を温める時間を増やし、梅を咲かせ辛夷を咲かせ桜の蕾を膨らませてきた。
 この歌を提出された時はまだ如月の寒が続いていた時であったが、その頃でさえ昼間の温かさは少しずつ地面を暖めて、水仙の固いつぼみを地上に出させてきた。
 長い冬を耐えて咲く水仙の花に春の扉を開いて欲しい作者の念いを感じる。




今月の短歌




神代(こうじろ)の
斜面(なだり)染めあげ
咲き盛る   
梅の香りを 
纏(まと)ひて廻(めぐ)る


矢野康史さん プロフィール
あさかげ短歌会津山支社代表。全国あさかげ短歌会代表。津山市西苫田公民館と一宮公民館の2カ所で短歌教室を指導している。津山市文化協会副会長。


【イベント】
矢野康史とその仲間展

「あさかげ短歌会」の作品展が開催されます。

【期間】4/6(水)~4/26(火)
【時間】8:30~17:00
【休館日】月曜日・祝日
【場所】苫田郡鏡野町竹田663-7 ペスタロッチ館
【問合】ペスタロッチ館 TEL:0868-54-7733

※イベントは中止・変更になる場合があります。 事前にお問合せ下さい。

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