アットタウンWEBマガジン

光は漆黒の闇の中から――

2020年03月03日

ある少女の思い          梅田直人


私の名前はサヤカ、施設で育った私には、生まれつき両親がいなかった。
今日もモニターごしの世界で欺瞞に充ち満ちた世界がエンドロールなしで続いている。

お金のない私は、道化師のように、15歳の頃から神奈川の川崎の路上で、相棒である施設からもらってきたお古のギターと歌い続けてきた。
それが、ハンパな人たちや水商売の人たちの心の琴線に触れていつも無数の人だかりができはじめた。
そんな人達の応援のお金で美味しい100円のカップラーメンを食べていた。

吉野家の牛丼が月に1度のご馳走だった……
心も身体も、売らないが、みんなのささやかな応援の気持ちのひきかえに得るカップラーメンは本当に美味しい。

18歳の時にロハだったが、口コミからのスカウトで東京の無名のライヴハウスでの演奏がきまった。
はじめてライブ・ハウスのステージに立つ私。
心身を削って作詞作曲してきたロックの楽曲、「ルシフェルの胸の中で……」や「2+2=7」などよりも、曲と曲の間の洒落にならない私の身の上話の方に観客席でどっと笑い声が響いていた。

やがて、Mad Jackal事務所に所属することになり、名前もサーカムゼニタルアーク・サヤカ(Circumzenithal Arc・SAYAKA)
に改めて、メジャーデビューすることとなった。
ついに夢だった本当のミュージシャンになっのだ。

しかし、ここでまたしても暗闇から突然鳴り響く、イナズマのような悲劇が私を襲う。
メディアでもある程度の名前が知れた後、私を捨てたはずの実の母親がお金の無心に訪ねてきたのだ。
その時に2度目、また私は親に捨てられた気持ちになり心がはり裂けた。

私の血のつながった実の母親は闇金から多額の借金をして。
そのお金をカルト教団に寄付をしたり、ギャンブルに狂ったように使い、今は詐病で生活保護を受給しているような人間なのである。

そして、他にも私と同じように、父親がわからない子供を生んでいた。
私はその母に凍てついた声色で捨てゼリフを吐いた、
「私の前から一生消え失せろ」と。

ここで私が爆発して感情に身を任せたら私の負けなのだから、私は暗闇の中で辛くて一人で泣き叫び続けた。
ヘリウムが希薄になってゆくように時間が経てばどんな大きな罪でさえ忘却されるのだろうか?
私が今度は親を捨てたが果たして私は罪人なのだろうか?
時計仕掛けの現代に、不似合いな聖職者のご託も、それはそれで御結構なことじゃないか?

信者たちは神様の奇跡的で感動的なエピソードを灼熱の砂漠の水のように求めているのだから。
私はネルドリップしたコーヒーのポツリポツリと堕ちる漆黒にこの世の悲哀を感じてしまう。
そこから抽出された美味しいコーヒーが私の心の闇に沁みてゆく。

私は冷たくどんどん深いところへエレベーターで堕ちてゆくような感覚に陥る。
この寒々しい世界にある真っ黒な太陽さえも、今の私には必要ない。

だけど、私はこの世に本当の正義がない限り、この漆黒の世界のステージで歌い輝き続ける。
私はこれからも、この鬱屈していた心を歌詞にして、ステージで歌い輝き続ける。

この漆黒の闇の世界から私は光放ちつづける。
それはまるで祝福された春の木漏れ日のように。


今思えばあの頃、路上で美味しい100円のカップラーメンや牛丼を食べる応援のお金をくれた人々が、私の本当の両親だったと思う。

心からありがとう。
今度は、私自身がそんな人々の心に光を照らす番だ。
ライブ・ステージの暗闇から両親のいない人たちの心の闇の中までも。
私は照らし続ける――

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