アットタウンWEBマガジン

@歌壇 短歌への誘(いざな)ひ

2023年04月16日

砂糖入れ 草餅作る 来月の
 幸ひまでの 苦艱(くかん)いくばく

千葉 二朗


●見事に冠の折句(おりく)で『桜咲く』を折り込んで歌を詠まれている。これは知り合いの本願成就を祈念する為に、わざわざその季節の桜が立派に咲くことを掛け合わせて初句の「砂糖(さとう)いれ」のさ、二句目の「草餅(くさもち)作る」のく、三句目「来月(らいげつ)の」のら、四句目の「幸(さきは)ひまでの」のさ、結句の「苦艱(くかん)いくばく」のく。つまり『桜咲く』だ。
 このように、それぞれの初句から結句までの冠(かんむり)つまり頭の文字を五文字集めて一つの言葉、ここでは『桜咲く』という縁起が良い餞(はなむけ)の言葉として、しかも一首の中におくゆかしく隠(かく)し込んで詠みあげている。なかなかの力作歌だと思う。
 折句の代表歌は『カキツバタ』の花を詠み込んだ「唐衣(からころも) 着(き)つつ慣れにし 妻(つま)しあれば はるばる来ぬる 旅(たび)をしぞ思ふ」在原業平(ありわらのなりひら)の古今集が先ず思われる。
訳は、何度も着て着慣れて体になじんだ衣服のように慣れ親しんだ妻を都に置いてきているので、はるばる遠く離れてきてしまった旅の寂しさをしみじみと思った。

いたましき報道の日日友よりの
 貝殻(かい)の雛(ひひな)に笑みを貰ひぬ

清水 美智子


●一読して流れも良く素直に表現されているが、なかなか工夫が見られる短歌で昨今コロナ禍や、昨年のロシアによる年明けからのウクライナ侵略戦争も、年内の解決を期待されていたが歳を越し、未だに終息する気配すら報道されず、本当にこの歌に詠まれているような、一般市民や子供たちまで虐殺されたいたましい報道ばかりの毎日である。しかし平和にとっぷりと浸かった日本では折しも春の雛祭り。
 作者の許に図らずも友達から貝殻で作られた可愛らしい雛人形が届けられたのである。日々の暗いニュースに普段は明るい人柄の作者であるが、いたましい報道に心を押し潰されそうな毎日を過ごしていたのであろう。「いたましき報道の日日」と二句切れであるが、三句目「友よりの」と受け下の句の「貝殻(かい)の雛(ひひな)に笑みを貰ひぬ」と上の句と対照的な表現でインパクトを強める詠み方をされている。表面的には一見穏やかそうだが、中身の濃い芯の強い作者らしい作風の短歌だと思う。

懐かしきシティーポップが蘇り
 詠一・まりあ我が店に聴く

河原 洋文


●詠一は勿論、大滝詠一。伝説のフォークロックバンド「はっぴいえんど」は彼が二十一歳の時、細野晴臣氏・松本隆氏・鈴木茂氏と結成した、当時ロックを日本語で歌う革新的なバンドであった。彼はそのバンドを解散後、ソロとして活動し「ナイアガラ・レーベル」つまり(大滝=ナイアガラ)を設立し、その後多くの人に耳馴染みな森進一の「冬のリビエラ」、松田聖子の「風立ちぬ」、小林旭「熱き心に」など、あああの歌もと思われる多くの名曲を世に送り出したアーティストである。
片や、まりあは当然竹内まりあであろう。「プラスティック・ラブ」など1970~80年代はまさにユーミンなど男女を問わずシティーポップの全盛期であった。
作者は過去に数軒の飲食店を経営されていて、大病を経験され仕事の第一線からは引かれているが、体力維持に運動もされ知識の吸収にと各種の講座や講演会など、常に積極的に参加されている。歌会にも奥様と熱心に出席される立派な方である。

マスク越し同窓会で顔と名を
 思い出すのに一苦労する

花村 輝代


●思わず吹き出しそうになる歌である。しかし作者の方は大真面目、老齢になっての同窓会らしく、歳をとるとそれで無くとも物忘れ・人の名前がなかなか思い出せない(苦笑)。その上昨今のコロナ禍によるマスクを着けての同窓会である。
 顔半分が隠れた上に昔若かりし頃の面影を、遙か遠退いてきている記憶で必死になって思い出そうと気持ちがもどかしく、もがいているのであろう。
同級生というのは何歳になっても、なぜか常に一緒に生きて来ていると錯覚を持ってしまうのは筆者だけではないと思う。近くで暮らしていなくても、それも何年も人によっては何十年も別の離れた場所で仕事も環境もまったく違った暮らしをそれぞれがしていたとしても、逢った瞬間、ほんの一瞬のうちに昔のまんまのお互いに還れるものである。まったく風貌や面影が微かなる記憶から外れてしまっていても、○○ちゃん?○○ちゃんじゃろう!でお互いの昔のまんまに戻れるのである。



今月の短歌


花笠石楠花(カルミア)の
花の蕾(つぼみ)は
こびとらの
金平(こんぺい)糖(とう)から
小さな日傘(ひがさ)

矢野 康史





矢野康史さん プロフィール
あさかげ短歌会津山支社代表。全国あさかげ短歌会代表。津山市西苫田公民館と一宮公民館の2カ所で短歌教室を指導している。津山市文化協会副会長。


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