アットタウンWEBマガジン

短歌への誘ひ

2021年01月16日


和らぎし夫は笑顔で着替えする
  不自由なるもあきらめもせず


屋内 友恵

●作者のご主人は入院されていて、時々家に帰ってこられると聞いていた。
 長い闘病生活の中で身体も少し不自由になられたが、気むずかしかったご主人も家族の看病に、着替えの時の表情が和らぎ笑顔が見られるようになった。着替えも健常者のようにスムーズという訳にはいかないが、粘り強く時間が掛っても笑顔で頑張ってくれている。
 作者は短歌を始めて約三年、カラオケも楽しまれて明るく前向きな性格の彼女は友人も多く、困難にもへこたれない人である。短歌はまだまだ荒削りだが、何よりも熱心に短歌の勉強会に通って来られる。
 表出の歌だが、上の句でストレートに夫の状態を表現し、下の句にその夫への応援の気持ちを、作者の直喩(直接的比喩)を入れずご主人の状態だけで表している。着替えに時間が掛っても諦めないご主人の笑顔が嬉しいのだ。



在がまま詮なきことは思うなと
 狗尾草の風がささめく


目瀬 敦子

●あるがままに生き、どうしようもない事に心を囚われるなと歌っている。
 狗尾草(エノコログサ)は俗に言う「猫じゃらし」で、路傍にどこにでも見られるイネ科の一年草である。野を渡る風に身を任せて揺れる狗尾草を作者は何気なく眺めていたのだろうか。あるいは家族のことや友達との事、巷のコロナ騒動のこと、これから世の中どうなって行くのだろう? と作者の思いは千々に乱れながら、風に揺れる狗尾草を見ていたのだと思う。
 この作者も短歌を始めて四年ほどだと記憶している。彼女も友人が多く前出の作者同様、友人に誘われて短歌に興味を持ち始めて、公民館の短歌教室で熱心に勉強をされている。この短歌を含め歌作りの材料を日常の中から巧く取り入れている。下の句の助詞を、狗尾草の→狗尾草にとしたい。



夕暮れの車窓に映える鰯雲
 心おどりて我が家へ走る


信清 博史

●晩秋から初冬にかけて、空は澄み雲は様々に容を変えて我々の目を楽します。
 作者は自家用車を運転しながら、ふと仰ぐ空に浮く鰯雲が目に飛び込んできた。
 鰯雲は秋の空に広がる巻積雲だが、雲が鰯の群れのように見えるところからそう呼ばれているようだ。もう少し小さくつぶつぶに広がるものを鱗雲、鰯雲より大きくなると鯖雲、もっと大きくもこもこした雲の群れは羊雲、と形態が変わるとその呼び方も変わってきて面白く、歌の材料として秋の雲は重宝する。
 この歌の作者はまだ短歌の道に入られたばかりだが、奥様を誘われて共に私の短歌教室の門を叩かれた。今年は喜寿を迎えられるといわれるが、ご夫婦仲の良さが常に歌柄に反映されていて微笑ましく思っている。
 さて表出の短歌であるが、感じられたままを素直に歌にされている。これから勉強されることが沢山有るが、焦らずくさらず精進されれば必ず上達される方だ。
 下の句の、心おどりて→心おどらせ我が家へ走る とされてはどうか。



トランプの敗北宣言なきことに
 合点のいかずアメリカの闇


河原 洋文

●先のアメリカ大統領選挙の結果をさっそく短歌に詠まれた、時事詠である。
 この作者も前出の方と同じ時期に私の公民館の短歌教室の門を叩かれた方で、まだ初心者の域ではあるが、ご多忙な中を毎月短歌会に出席され熱心に勉強をされている。
 短歌の基本は写生詠。難しく言えば切りが無いのだが、つまりは四季それぞれの情景(花・雪・風・月)などの豊かな風情を、見たこと感じた事象の生を写し取る。言葉によって自分の感じ取った情報を出来るだけ具体的に(抽象的でも良いのだが、相手に伝わらなければ意味が無い)表現して、その短歌を読んだ人に感動を与えられれば先ずは目的が達せられたことになる。そしてこの歌のような時事詠なども、現代短歌ではよく詠まれている。いわゆる世相を斬る短歌だ。
 時事詠で大切なことは、一般大衆に受け容れられ易い題材を選ぶことが第一であり、その点で作者は巧く世相を切り取って詠んでいると思う。


今月の短歌






矢野康史さん プロフィール

30代後半、本格的に短歌を始め、40代にアララギ派の歌人・島木赤彦の写生短歌を踏襲する「あさかげ短歌会津山支社」に入会。

中島一男氏、国本利朗氏、梶岡辰男氏、二木幹雄氏らに師事。
現在は同会津山支社代表。

全国あさかげ短歌会代表。

津山市西苫田公民館と一宮公民館の2カ所で短歌教室を指導している。

津山市文化協会副会長。



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